12年前

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 かくいう俺も2カ月も掛けた目的があったので、彼女の弾き語りを聞きたい気持ちで短い後ろ髪を引かれつつも、余儀なく素通りをしてしまったのである。  と言いたいところだが、何のことは無い。本音は誰も聞いていないところに一人で立ち止まるのが恥ずかしかっただけなのである。  もちろん、その時の目的である一人ガールズバーデビューと言うミッションを熟さなければならないと言う使命感もあったけれど、それは俺の中の言い訳に過ぎなかったと思う。  と言う事で、俺はかなり通り過ぎてから二度程振り返りはしたものの、その場を後にしてしまったのである。  しかし、ガールズバーに行っても、どうにもそ弾き語りの女の子が気になってしまう。俺に取っては、完全にガールズバーの女性よりもその女の子が上回ってしまっているのである。  そんな状況ではせっかくのガールズバーも楽しめる訳がない。  結局は滞在時間は経った1セットの1時間で出ることとなってしまう。  俺は店を出ると、その女の子のところに足早に向かった。まだ彼女が居ることを願って。  俺がその場に戻ってみると、多くの人が振り向きもせず素通りする歩道の片隅で、女の子はまだ一生懸命に弾き語りをしていた。曲はさっきと同じオリジナルらしい曲である。  俺は、女の子の歌唱力に反したギターの実力が勿体なく感じてしまい、その曲を聞き終えると、彼女が自分の前に広げていたギターケースに千円札を入れ、何の躊躇いもなく彼女に話しかけ始めた。  不思議にもオタク気質の俺がである。 「凄く、良かったよ…」  そう言って女の子を見ると、上目遣いで俺を見る彼女の目が少し潤んでいるのが分かった。  多分、自分の歌を立ち止まって聞いてもらえたことが、余程嬉しかったのだろう、そう思った。   俺は彼女の涙には気付かない振りをして続けた。 「…もし良かったらだけど、少しギター貸してくれないかな」 不信感を持たれない様に、人の良さそうな笑顔を心掛けたつもりではある。
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