12年前

3/4
前へ
/10ページ
次へ
「えっ?」  驚きながら目頭に手を当てている女の子。 「ちょっとでいいんだけど、ダメならいいんだけど…」  少し彼女は考えていたが、千円札の効果か俺の作り笑顔の効力かは不明だが、彼女は俺にギターを手渡してくれた。 「ありがとう」  受け取った俺は、まずは微妙にあっていないチューニングから始める。  俺はそれを何気なく嫌味にならない様にやったつもりだが、女の子は自分でも気になっていたのだろう。 「やっぱり少し変ですよね」  恥ずかしそうに笑う、その笑顔が愛らしい。 「ほんの僅かだけど」  俺は、右手の親指と人差し指の間を1mmだけ開けて、少しだけのポーズを取って見せるが、 「やっぱり…」  それに肩を落とす女の子。  俺の気遣いも役には立たなかったようである。  普段、女の子はギター専用のチューナーでやってるらしいが、今日はそれを持って来るのを忘れたらしい。  俺は女の子が持っている歌本から、彼女の知っていると言う曲を選んで弾いて見せる。それに彼女が歌い、俺がコーラスを入れたり、適当にハモってみたりで2曲ほど楽しんでみた。  スーツ姿の俺は、彼女と釣り合った服装ではないので、周囲からはどう映っているのか分からないが、俺たちの周りには3人程立ち止まっていた。 「ギター上手いですね。やってるんですか」 「趣味で少しだけ」  女の子の褒め言葉に俺は有頂天ながらも謙遜。ガールズバーの何倍も楽しくなってしまう。 「全然少しじゃないですよね、少しでそんなに上手かったら天才過ぎます。  良かったら私のオリジナル曲があるのですけど、弾いてもらえませんか?」  女の子がそんなことを言い出した。 「楽譜はありますか?」  やる気満々な俺。 「ないですけどコードは3つだけですから」  そこで俺は女の子に一回弾き語りをしてもらう。  これで今日この曲を聞くのは3回目。曲の進行は単調だし曲調も理解したので、まあ間違わずに弾ける自信はある。 「大丈夫そうです」  俺はそう言って、再び彼女のギターを受け取り適当にアレンジをして弾き始める。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加