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ちょっと待ってくれ、脳内の処理が追いつかん! つまり俺の言動はすべてこの人に筒抜けだったのかよ!
「子猫を運び込んだ時から、動画配信者だろうなって思ってたよ。リアクションがちょっと演技っぽかったからね。同じこと考える人は多い。わざと怪我させてから運び込む奴もいる」
「滅べ」
「本当にね。すぐに君のチャンネル見つけてずっと見守ってたんだけど。金稼ぎの道具じゃなく、本気だなと思った頃からコメントをするようになったんだ」
演技で可愛がってるのか、本気なのか。いろいろな人を見てきたからわかるそうだ。最初からバレてたし、骨抜きになったのも見られてた。恥ずかし。
「猫と一緒に生きる道を迷わず選んでる君のさっきの言葉。おじさんちょっと感動しちゃったから」
「は?」
すると受付の助手のお姉さんが笑いながら言った。
「私、再来月でここ辞めるんです。父に病気が見つかって、家業継ぐことにしたから」
「急な話で次の人まだ見つかってなかったんだ。資格がないとできない作業はとりあえず置いといて。受付作業からかな」
「え」
「引き継ぎ中に半人前くらいにはなってもらわないと困る」
そう言うと獣医さんがテリヤキを撫でようと頭に手を出すけれど。
がぶ。
「あっはっは。相変わらず飼い主以外には絶対に心を許さないよねこの子。可愛いなぁ」
「いえ、あの。血出てますけど」
「ご褒美だよ」
獣医だから詳しいというよりこれは真正のプロ下僕だ。真似できん。
「えっと、ちょっと考えていいですか」
いや、もうほぼ心は決まったけど。何かあったら真っ先に相談できるし、仕事中ここに連れて来れる。
「わからない事は二回まで聞くのは許すけど。三回目はチョップね」
「厳しい」
「君はちょっと厳しくした方が伸びる子みたいだから」
ブーブー文句言いながらも、なんやかんやちゃんと言うこと聞いてお世話してきたでしょう。そんなことを笑いながら先生は言った。
「ちなみに先生、空手黒帯だから気をつけてくださいね」
助手がニコニコ笑いながらそんなことを言う。黒色って何だっけ?
「動物怪我させた配信者達をボコボコにしてきました」
「……」
やっぱもうちょい真剣に検討を……。
「みゃあ」
うぐ。テリヤキ、そんな無垢な目で俺を見ないでくれ。
まだ病弱なテリヤキに何かあったらすぐに相談できるし。専門家の近くにいれば俺も知識が身に付くかもしれない。何より動物病院だったらまあまあ時給も良いだろうし。
「死ぬ気で覚えればいいんだにゃー」
やめろおっさん、テリヤキはそんな気色悪い声じゃない。変なアフレコすんな。と、ツッコミたいが我慢だ。腹が決まったから。
「よろしくお願いします」
「容赦しないからね」
「こちらこそよろしく、でしょそこは!」
俺の大声にびっくりしたテリヤキが、ぴょんとドアの隙間から外に出る。
「ぎゃあああ!?」
俺も飛び出し、近所の人たちを巻き込んで大騒動となって。迷惑かけた張本人ということで警察にめちゃ怒られるところもばっちり配信された結果。
愛猫に何かあるとパニクって前科が増える下僕チャンネルと呼ばれるようになった。
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