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「この子が頑張って生きようとしても、我々がどれだけ尽力しても。どうにもできない時はどうにもできません。それが現実です、私は神じゃない」
現実かもしれないけど、そんな言い方せんでも。でも、獣医も真剣な様子だ。ピリピリしてるのがわかる。
「今までの会話から察するに、あなた猫を飼ったことがないでしょう?」
「あ、はい」
「だからこそはっきり伝える必要があるのです。命を預かる、命がけのことに関わるというのはそういうことですよ。覚悟が必要です。遠回しに言ったら意味がありません」
動物を使って動画配信しようと考えていることを、見透かされたような気がした。正面から言われて思わず言葉に詰まる。
「少し言い過ぎましたね、すみません。あなたのやった事は間違いなく正しいことです」
「あ、はい」
子猫は入院、今夜もてば奇跡だと言われた。考えてみたら入院費俺持ちじゃん、そんなつもりなかったのに。出費が痛い。
「入院するには書類が必要です。ここにお名前をお願いします」
あるわけねえだろ名前。まあいいか、何か適当に考えれば。くそ、配信してるの隠してなかったらここで名前を募集です、とかできるのにな。もう見た目からつけるか。
……ウジの記憶は除外するとして。そういやしっぽはちょっと茶色ぽかった。照り焼きチキンみたいな色だったな。
『テリヤキ』
そう書いて他の欄を埋めて受付の人に渡すと、その人は見た瞬間吹き出した。
「いえ、あの。お名前の欄はご自分の名前です」
「え!? あ、俺の名前!」
紛らわしいわ! いろいろ手続きを済ませて、支払いは当面先。どんな治療が発生するかまだわからないからだ。
ようやく終わってずっと配信中だったスマホを見てみると八百人に増えてた。コメント欄もえらいことになってる。
「ごめんパニクって配信切るの忘れてた。全部放送されちゃったよな?」
バッチリ見てたよ、助かってほしい。いろんな意見が飛び交う。獣医何様だよというコメントもあるが、獣医のおっさんを称えるコメントの方が多そうだ。猫飼ってるんだな、みんな。心当たりがあるんだろう。
『つーかテリヤキってさあw』
『普通名前書くところって自分の名前でしょ』
「動物病院来たのは初めてなんだからしょうがねぇじゃん」
俺の素ボケがみんな刺さったみたいだ。なんかすげえ疲れた。俺何もしてないけどな。
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