1 ふたつの国

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 フォーリアは小国ではあったが、武力に長けた国だった。  戦乱の最中でも他国の侵入を退け、フォーリア騎兵団は大陸でもその名を轟かせた。強かったがゆえに恐れられ、悪名ともいえる噂も少なくない。  しかし、戦いを生業にする傭兵にとっては、自身の力を奮うことができる場所でもある。  腕に覚えのある者はこぞってフォーリアを訪れ、王は彼らを受け入れた。  それが、大国の計略とも知らずに。  他国の息がかかった戦士の手引きにより軍は散り散りとなり、その間に王宮は制圧。  ジェラルドが駆けつけたとき、すでに王の首は取られたあとだったし、九死に一生を得た王太子の兄も、結局は還らぬひととなった。  ロイ、おまえに託すよ――  消えそうな兄の声を聞きもらすまいと、必死に耳をそばだてた。  ジェラルドはもともと、国の重鎮にいい顔はされていなかった。平民の母を持つ彼は、疎まれていたのだ。  ゆえに彼らは、十七歳のジェラルドを筆頭に国を再建するよりは、敵の属国となることを選択した。  ジェラルドはわずかな仲間を伴い国を離れ、旅を続けた。  もともと腕の立つ一行だ。護衛の仕事などをしながら暮らすうちに三年の月日が流れ、仕事で足を踏み入れたのが、ウィンスレット公国である。  ウィンスレット公国は、かつて長を同じくし、フォーリアから分かれた小国。王族の一員として、幼いころに訪れたこともある。  いったいどこで顔が割れたのか、宿に泊まっていたジェラルドのもとへ公爵の使いが現れた。  フォーリア国王との約束があったから、らしい。  知らなかったことだが、父はふたたび国をひとつにすることを願っており、そのために自身の息子を公国の姫と(めあ)わせる心づもりだったという。  まずは姫を貰い受け、子をなした暁にはその子どもを公国へ送り、次代の婚姻へつなげる。  なんとも気の長い計画だ。  父もまさか、自身の国がなくなってしまうとは思っていなかったのだろう。  しかし、これは好機だ。  婚姻は国家間で取り決められた約束。書面も残っている。これを反故にするのは難しい。  王子が存命している以上、盟約に従い婚姻はなされる。フォーリアが滅びているため、王子が公国へ入ることになるだろう。  ――つまり、俺が次代の公爵だ。  国が欲しかった。  亡兄から託された思いがある。  ふがいない自分についてきてくれた仲間のためにも、ジェラルドは「国」が欲しかった。  それが転がり込んできたのだから、好機でなくてなんだというのか。  自分を追い出した連中も、家族を殺した奴らも、いずれ見返してやる。  それが、腹違いの自分に優しくしてくれた兄への、最大の供養になるだろう。
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