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一行は、城の一角にある離宮を与えられた。
賓客を招く際に使われる場所だという。一番大きな部屋を私室としたジェラルドは、二階の窓から城を眺める。
聳え立つ白亜の城。その頂きには、眩しい光が輝いていた。
白き宝玉。
それは、公国が持つ神秘の力。
人知を超えた力――法力と称される能力を持った巫女が光の珠を生み出し、それを天上へ捧げる。
白の巫女。
公国の至宝だ。
この国は武力ではなく、聖なる力で国を護ってきた。
御伽噺のようなそれを信じられるのは、フォーリアにも似たような事象があるからに他ならない。
「お出かけですか?」
「悪いか」
「いえいえ。姫様たちをどうぞ吟味してください。違うタイプの美人ですよね」
軽口を叩く部下のファウルに、渋面をつくる。
旅をするうちに伸びてしまった黒髪は野性味を帯び、剣呑な色が浮かんだ濃紺色の瞳と相まってかなり殺伐とした印象をつくるが、ファウルは気にとめるふうでもない。少年のような見た目をした彼は、これでもジェラルドよりも年上なのだ。
ジェラルドに従う部下は、わずか五名。
オルソー、ゴラーブ、ファウル、ネイト、ゴルジ。
最年長のゴルジは、一行の頭脳として公国の上層部と接触を計り、こちらの立場をなんとか確保しようと動いてくれている。
公国が味方であるとはかぎらない。
もしものときに備え、オルソーとゴラーブの二名は城下町に身を潜めている。
武力で名を馳せていたフォーリアは、この国では蛮族扱いだ。城内を歩いていると、すれちがうメイドが怯えている。婚約者であるはずの姫たちすら、姿を見る機会がないほどだった。
ウィンスレット公国には三人の娘がいて、一番上の娘が二十二歳。次いで二十歳、十八歳と続いており、誰を選んだとしても釣り合いの取れる年齢だ。
どの姫をと定められているわけではなく、選択はジェラルドに委ねられているのだが、さてどうしたものか。
先日の顔合わせを思い返していると、末姫が歩いている姿が見えた。そこに上の姫たちが現れ、立ち話を始める。
ジェラルドは気配を殺して庭のほうへまわり、木陰に身を潜め、耳をすませることにした。
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