上を向けば阿呆

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「まぁ、そう言うなや。今から俺のメインやから、その話は終わってからしよか」  そうやって社長は話を中断させ控室を出ていく。いつもこうや。真面目な話をしようとするとすぐ逃げる。所詮、入って一年ぽっちのルーキーには聞く耳持たずや。これが不満の原因でありストレスになっとるわけ。  ワイもすぐにシャツを着ると再びリングへと向かう。レスラーちゅうのは大変で、試合が終わってもセコンドいう仕事が残っとる。場外乱闘で客を守ったり、試合中の選手に声援を送ったりとまぁ色々あるんや。  間近で試合を見て技術を盗むのも、この西日本プロレスに入った一つの理由やけど、しっかりとした試合をやらへんから盗めるもんなんて一つもないわ。 「遅かったな野猿」 「おっ、ドラ息子。出番が終わってから着替えもあるんや。そんなん怒らんでも、セコンドの仕事はちゃんとするで」 「ドラグンジュニアや。先輩を馬鹿にするんやない」  リング下には既にセコンド陣が集まっとった。その中でも社長と似たような緑色のマスクをしたドラグンが声をかけてくる。血の繋がった息子なのに、社長と違ってこれっぽっちも才能がない可哀想な奴。まぁ、こんな甘々な環境でやっとったら花なんて開かんわな。 「そうや、今日の試合スペシャルゲストなっとったけど誰か分かるか?」 「いや、知らん。聞いたけど親父は何も教えてくれへんかったわ。今から分かるやろ」  先に社長の貫禄ある入場曲が流れると、客の大歓声が会場いっぱいに響き渡る。こんな団体におっても、やっぱり人気は高い。どうせ今日も変な試合するんやろうけど。 「うん? やっぱり誰か分からん。誰やあれ」  サングラスにパツキンロングはパーマでクルクル。黒タイツには如何にも趣味悪そうな髑髏(どくろ)のデザインがしてある。正体不明のスペシャルゲストはどの国内団体でも目にしたことがない、外国人レスラーやった。情報なさすぎて客も微妙な反応しとる。 「怪しい。親父、ほんまにこんな胡散臭い奴を呼んだんか……。スペシャル感ないで」 「でもほら、うちの変人マスク集団に比べたらマシやろ」   *
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