上を向けば阿呆

3/24
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
 最初こそ期待はしとらんかったど、試合が進むにつれて謎の外国人選手ラリー・アルファの強さに会場は盛り上がる。鍛え上げられた筋肉の鎧から出るパワーファイト。社長もお笑い試合やっとる時とは違って、動きのキレが良い。気合は充分みたいやな。  でも、次第に流れは変わっていき、一方的な試合展開に会場はどよめきだす。身長一六五センチの社長に比べて、アルファは一八五センチぐらいやろか。身長、体格差があるとこんなに実力の違いが出るもんかと思っとったけど、何か様子がおかしい。 「なんで抵抗せんのや社長、戦わんかい!!」 「ちゃう! 抵抗できんのや。急に鈍くなったし、動きに違和感がある。親父はどこか怪我しとる。これ早く終わらせんと!」  アルファは首を掻っ切るようなアピールをすると、倒れている社長を立たせた。そのまま逆さまに抱え上げ、頭部を膝の間に挟み込む。両膝を曲げた状態で落下すると、ツームストーン・パイルドライバーが炸裂。エグイ角度、社長はピクリとも動かんくなった。 「カバー、ワン、ツー、ツー!」  アルファはもう返す力もない社長の腕をスリーカウント直前に持ち上げ、強制的にカバーを止めた。今のは明らかにワザとで、試合を長引かせるためにとった不必要な行動や。  立ち上がったんは良いけど、社長のマスクは右半分が破れていた。 「アカン。やめるんやアルファ!!」  これ以上はやれないと判断したドラグンがリングへと飛び込む。せやけど、すぐに反応したアルファは高く突き上げ真っすぐと伸びたトラース・キックでドラグンの顔面を捉える。乾いた音が鳴り、ドラグンはそのままマットに倒れ込み、大の字に伸びた。 「ドラグン……クソ、アルファ!!」  今度はワイがリングに入りストレートパンチを打ち込むけど、それはいとも簡単に掴まれた。 「はっ、放さんかい! うちのボスにこれ以上……ぐっ!?」 「小僧、お前も壊してヤル」 「うがっ!!」  ワイはそのまま首を片手で掴まれ持ち上げられると、マットへ叩きつけられた。背中にはコンクリートの上にでも投げ捨てられたかのような痛みと衝撃が走る。試合の後もあってかチョークスラム一発で体力は限界にきて、社長が人形のように好き勝手されるところを見ることしかできんかった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!