哀鳥歌

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朝 鳥籠のある部屋に行くと 私が新しい餌と水をあげるのを待ちかねていたように 胡錦鳥の七織さんが 餌入れの前で待っていた 止まり木の上で羽をバタバタさせて まるで 「お腹空いたよ」「早くご飯ちょうだい」と 言わんばかりに ”ごめんね”と 私は最近 朝起きるのが遅い事を 心の中で謝る でもそれでも 餌をあげる為に カーテンを開けて防寒の為の鳥籠の覆いを取って 部屋を明るくする為に 鬱で起きられない自分を 何とか起こしているのだけど こんな可愛い姿は見た事が無い 今迄は遅めの時間に行っても そんなに私を(新しい餌と水を) 待ち焦がれている素振りなんて見せなかったのに 「そんなにお腹空いてたの?」 一生懸命に餌を食べる七織さんを見乍ら 私は翼の内側が剥げている事に思いを巡らせる 今日は小鳥の病院はやっているけれど 土日は何処も人が多いから 私は外に出られない 「明日お医者さん行こうね」と私は七織さんに言う 羽根が抜けているだけで食欲はこんなにあるんだから ダニか皮膚病か何かだろうと そんなに急ぐ必要は無いだろうと けれど月曜の朝 羽を膨らませて震えている七織さんを見て 私は後悔する 今日迄待ってしまった事を 部屋のストーブも点けて暖かくして 震えが収まったのを 餌を食べているのを見て少しだけ安心するけれど ”もしかしたら死んでしまうかもしれない” 心の何処かでそう思う 病院に行って 思ってもいなかった病状を告げられて 手術するにもリスクが高すぎると言われて 私は愕然とする そして思う 渡された一週間分の薬を見乍ら 一週間も持たないんじゃないかと 家に帰って ふらつき乍らも真っ先に餌を食べる姿を見て 食べないと今すぐにでも死んでしまう事を 自分でも分かっているのかもしれないと 本能的に 分かっているのかもしれないと そうやって 本当に一生懸命食べて 薬の入った水も嫌がらず飲んでいたのに 翌日の夕方には 止まり木に止まっている事すら出来なくなって 私が鳥籠に敷いた紙の上で 何とか命を繋ごうと 暖かいヒーターの側で餌を食べていた けれど そうやって繋ぎ止めていた か細い命の灯も 夜が更ける頃には消えてしまった 紙の上で 餌と水を前に せめてもの救いは 私も知らないうちに止まり木から落ちて 不様な姿で死なずに済んだ事 ”もっと早く病院に連れていってたら” ”死なずに済んだだろうか?” ”助かっただろうか?” 私は後悔の念に襲われて 動かなくなった小さな亡骸に手を当てて でも もうそれは息をしていない それ迄のように荒い呼吸に体を震わせる事も無く 静かに安らかに横たわっている ”ご飯、早くちょうだい” 最後に見せてくれた その可愛い姿を 見られる事は もう二度と無い (3月に死んでしまった胡錦鳥の七織さんの追悼の詩)
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