212人が本棚に入れています
本棚に追加
ピンポーンとインターホンが鳴り来客を知らせる。
「はいっ」
『久世さーん、お荷物届いてまーす』
「今行きます」
キャビネットの引き出しから判子を取りバタバタと玄関へと向かった。
「いやはや中山さん、いつの間にこんなに若くて可愛いお嫁さんもらったんですかねぇ」
「可愛いだなんてそんな」
「久世というのは奥さんの方の姓? 中山さん、婿養子になったんですか?」
「あ……そう、ですね……えーっと、のっぴきならない事情がありまして……」
「そうなんですね。どうぞこれからもよろしくお願いしますね」
「はい、此方こそ! ご苦労様です」
深掘りしない宅配業者さんに感謝しながら玄関で受け取った荷物を抱えながら小さくはぁとため息をついた。
(嘘ついちゃってなんだか申し訳ないなぁ)
久遠寺智里と結婚して知ったのが彼の本名だった。当然とばかりに久遠寺智里というのはアーティストネームで、彼の本名は久世統理といった。
結婚して私も久世姓になったのをきっかけに家の表札を【中山】から【久世】に変えた。
つまり久遠寺智里は中山さんのフリから本来の久世統里にネームチェンジしたのだけれど、中山姓で慣れている馴染みの宅配業者さんたちは若干戸惑っているようだった。
こちらも詳しい事情を話さないから毎度やんわりと誤魔化すのに気を遣った。
「梨々香」
急に後ろから抱きつかれて心臓が飛び出るほどに驚いた。
最初のコメントを投稿しよう!