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「いわれた時は本当に悔しくて……どうしてこんな人に大切なものを捧げてしまったのだろうと後悔ばかりしていました。でも先生からの罵倒を活力にして今まで以上に夢に近づける努力をした結果、今の事務所の社長に拾ってもらえたんです」
「そうか、梨々香は高校卒業後にデビューしていたな」
「はい。まぁ、全く売れないまま二年が過ぎましたけど」
そういう意味では先生には感謝するところがあるのかも知れない。あの時、かえって優しい言葉をかけてもらっていたらもしかして私は夢を叶えられなかったかも知れないし、統理さんにも出逢えていなかったかも知れない。
そう考えると何故か先生との苦い思い出も少しだけ柔らかく心の奥底に置いて行けるような気がしたのだった。
「──というような経緯のあった元カレが……先刻の人でした」
「……」
私は統理さんに全てを語った。そこに嘘はひとつもなかった。
統理さんはしばらく私の目をジッと見つめた。形のいい瞳の中に私の間抜けな顔が写り込んでいる。
(統理さんの目……透き通っていて綺麗……)
なんてことを考えていたら突然統理さんが私の手を取った。
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