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「統理さん?」
「あの男、ストーカーじゃないか!」
拳を握りしめながらそんなことをいう統理さんをジッと見つめた。
(こんな統理さん、珍しいなぁ)
歳上の男性らしく頼り甲斐があって包容力があって大人の男性だなといつも思っていた統理さんがなんだか同年代の男の子みたいに怒りを露わにしていた。
こんな一面もあったんだ……なんて思い、気が付いたら笑みが零れていた。それを目敏く見た統理さんは少しだけ顔を歪ませた。
「なに笑っている」
「……え」
「梨々香は危機感がない。いくら元カレとはいえ常軌を逸した奴は犯罪スレスレの行為を平気で犯すってことを自覚しないと!」
「……えーっと」
統理さんが私のことを心配してくれるのがとても嬉しくてつい顔がニヤけてしまう。
「梨々香っ」
「あ、ごめんなさい。統理さんが心配してくれるのがちょっと嬉しくて……つい。でも多分大丈夫ですよ」
「何が」
「先生のこと。ストーカーにはならないと思います」
「どうしてそう言い切れる」
「だって先生、私に未練なんて全然ないですよ。私と別れた後すぐに別の女子生徒と付き合ってその子が卒業してから結婚したって訊きましたから」
「……は?」
「でも一年ほどで離婚してまた別の高校に勤めてやっぱり其処の女子生徒に手を出したとか何とか噂されていて」
「……」
「つまり先生は単なる女子高生好きです。高校生じゃなくなった女には興味がないんです」
「それ、どこ情報?」
「高校時代からの友だちの間では有名な話で、未だに時々情報が入って来るんですよね。だからある程度先生の近況は知っていましたけれど」
「でもだったらなんで今日みたいな」
「恐らく私が先生のプライドを深く疵付けたことをずっと根に持っていたんでしょうね。才能に関する事柄が先生にとってはタブーのようなものだったから。私がデビューしたことも面白くなかったと思うし、でも全然売れないということで嫌味のひとつでもいって笑いたかったんじゃないでしょうか」
「なんだ、器の小さな男だな」
「まさにそれです」
私は統理さんの的を得た表現に思わず親指を立てていた。
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