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いつもとは違った仕事継続期間中、私は訳が分からないまま統理さんのしたいようにさせていた。つまり体を求められたら拒むことなくどうぞといわんばかりに差し出していた。
昼間、食事以外の時間はひとりきりで何をするにも退屈だった私は相変わらず森の中で楽曲作りで時間を潰していた。
(そろそろ新曲、出したいなぁ)
帰京した時に事務所の社長から直接的な明言は避けられたけれど、きっと一刻も早く久遠寺智里名義でLiLiCaの新曲を出したいと思っていることが窺えた。
それは私も切望していることであって、出来れば社長の意に沿うような形で吉報を届けたいと思っている。
(社長にはお世話になったからな)
しがない路上シンガーを拾ってデビューまでさせてくれた恩人。その恩人に何とか報いたいと頑張って来たけれど世間の風当たりは想像以上に厳しいものだった。
細々とした営業活動のおかげでファンだといってくれる人も徐々に増えて来てはいるけれど今回の結婚で少しだけ注目を浴びた今、このタイミングで新曲を発表出来たらと思っていた。
──だけど
「……はぁ」
座っているベンチにギターを置いて空を見上げた。
「あぁ……青空が綺麗だぁ~」
こんなに素敵な環境にいるのにどうしたって曲作りははかどらない。勿論その理由は前々から解っていることだった。
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