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その突然の行動に思わず戸惑った。そんな私とは裏腹に統理さんは私の唇を押さえながらにっこりとほほ笑んだ。
「俺からいわせて欲しいな」
「……」
「いい?」
「……」
何をいわれるのか解らなかったけれど肯定の意味を込めてうんうんと首を縦に振った。すると統理さんの人差し指が私の唇から放れ、穏やかな表情のまま口を開いた。
「梨々香、俺が作った曲に詞をつけてくれないか?」
「………え」
一瞬、語られた言葉の意味が解らなかった。
「あれ、梨々香?」
呆けている私を統理さんが緩く揺さぶり、それによって思考が動き出した。
「大丈夫? 梨々香」
「っ、今……統理さん、なんて──」
「だから俺が作った曲に梨々香が詞を付けてくれないかってお願いしたんだけど」
「統理さんが作った曲って……それって」
まさか──という気持ちが胸いっぱいに広がった。欲しくて欲しくて堪らなかった久遠寺智里の曲を私は手に入れることが出来たのだろうか?!
だけど統理さんから発せられた次の言葉で私の歓喜はビシッと音を立てて固まってしまった。
「ただしそれはあくまでも俺が作った曲であって久遠寺智里が作った曲じゃないから。それは納得してね」
「……え?」
予想外の言葉に統理さんが何をいっているのかすぐには理解出来なかった。
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