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(そういえばあの時……)
先生とのことを話して私が怒っていた時、統理さんがとても悪い笑みを浮かべた瞬間があった。口元は笑っているのに目が笑っていない──ある意味怖い笑顔だった。
あの時は何かよく分からないままやり過ごしてしまったけれど少し心に残っていたことだった。
(もしかしてあの時に──?)
「俺のことを悪くいわれるのは構わないが俺と結婚したことで梨々香の価値が下がるとか見下されるとか、そういうことに我慢が出来なくなった」
「……」
「あの場で俺が久遠寺智里だといってもあの男はきっと信じなかっただろう。だったら実績を作った方がより与えるダメージは大きいだろうな、と」
「あの時、そんなことを考えていたんですか」
「ん?」
「いえ……なんだか統理さん、すっごく悪い顔していたから」
「あぁ、梨々香には分かってしまったかな。俺が思いついた企み」
「企み、ですか」
「長い期間をかけてジワジワと成される一種の復讐」
「っ、復讐って……怖いですよ」
「まぁ、それは言葉の綾だよ。とにかく俺は久遠寺智里の名前じゃなくても成功する自信がある。久世統理の名前でも有名になってそれで──そうしたら俺は久遠寺智里の全てを明かそうと思っている」
「!」
(全てを明かすって)
つまり久遠寺智里は自分だと公表するつもりなの──?!
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