210人が本棚に入れています
本棚に追加
とある音楽雑誌を出版している編集部から私と統理さん、ふたりのインタビューがしたいと依頼が来た。現在、それが行われる場所へと向かっている途中だ。
統理さんが私のために作ってくれた曲に私が歌詞をつけ、出来上がった作品に【tie】とタイトルをつけて発売されてから数か月。
発売当初はシンガーソングライターのLiLiCaの新曲が夫との共同作という小さな話題で世間に出回ったけれど、実際に曲を聴いた人たちから口コミで『この曲いい!』とか『夫婦愛の詰まった泣ける曲!』なんて話題にすり替わりじわじわと人気が出て来ていた。
そして【tie】の作曲者である久世統理なる人物がクローズアップされ、今回取材を申し込んで来た雑誌編集者さんの熱烈なアプローチにより私たちはその依頼を受けた形になった。
「……統理さん」
「ん?」
車窓から流れる景色を見ながら運転席に声を掛けた。
「本当にバラしちゃうんですか?」
「……」
「それに……もう久遠寺智里として曲を作るのを辞める宣言までしちゃっていいんですか?」
「……」
そう、今回私たちにインタビューの依頼をして来た雑誌編集者は元々熱心な久遠寺智里ファンで【tie】を聴いた瞬間、この曲を作ったのは久遠寺智里だ!といって来た唯一の人だった。
久世統理の正体を見破ったその人なら信頼出来るということで統理さん自らが取材のオファーをOKしたという経緯があった。
最初のコメントを投稿しよう!