神降ろし

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神降ろし

フィーロの言葉に呆然としつつも、ジルクはハッとしながら叫ぶ。 「そんな……そんなの侵略じゃないか!そんなこと……許されるものか!」 「お前に言われたくはない」 フィーロがせせら笑う。確かにその通りである。まさに公爵家を……いいえ、あなたたちはこの国を侵略したようなものなのよ。名前だけ付け替えてもその罪は同じ。 「ちょっと……私を無視しないでよ!」 ――――っと、ここでメアリィが出てくる。相変わらずギャンギャンとうるさい……。 「私は聖女よ!聖女の国を侵略だなんて……神の裁きが下るわ!」 だから侵略じゃないって言ってるのに。 「そもそもさぁ、お前ほんとに聖女なの?」 ふと、エレミアスが首を傾げながらからかうように問う。 「……は?」 呆然とする聖女に続くのは神聖騎士であった。 「自分たちも同じ疑惑を抱いております」 やはり……ね。自分たちをもののように扱う聖女。彼らは目が覚めたかのように彼女に仕え従うことをやめ、こちら側についていた。 「本当に……何故かロザリアさまや殿下に遭遇した日、突然洗脳が解けたかのように、この女を聖女とは思えなくなりました」 何かがトリガーになったと考えるのが妥当だけど。 「メアリィのあの言い様は酷かったものね」 やはりそれだろうか。神聖騎士たちをもの同然に扱い、自分の都合のために死ねと言う。 「残念ながら今までもそれは当たり前でした。早く死ねばいい、入れ替えはまだかなどの暴言、それでも何故か我々にはそれに逆らう……と言う選択肢がなかった」 酷すぎる暴言の数々である。まさかとは思うがメアリィが公爵家に彼らを連れてこなかったのも、彼らに死んでもらい、目当ての別の神聖騎士を得るため……?それか、公爵家で虐げられていると言う狂言を貫くために、彼らを連れていては目的が果たせなかったとか……彼女の目当ての神聖騎士しゃなきゃ意味がなかったとか……。 「本当に我々としても、何故洗脳が解けたのか」 神聖騎士たちが顔を見合わせていれば……。 「あの場にはフィーロがいたもんねぇ」 そうエレミアスが微笑む。 それはどういうことかしら……? けれどその疑問を問う間もなく、メアリィが叫ぶ。 「何よ何よ何よ!私の神聖騎士なのに何で言うことを聞かないの!?ちっとも死なないから目当ての神聖騎士が手に入らないじゃない!しかも私を裏切って……っ」 本当にメアリィは何を言っているのか。 「私は聖女よ!」 メアリィが右手の聖女の印を見せつけてくる。それこそが、メアリィの人格がおよそ聖女に相応しくなくとも、国の宝、神の使いとして扱われる理由。 「聖女を裏切ったものたちに、神の罰を与えてやる!」 はい……? いや、あなたは神さまじゃないでしょ。神罰を与えるのは神さまのはずである。メアリィは聖女と言うよりも、神になったつもりでいるのか。 しかしその時、メアリィの右手の印が突如光りだす……! 「来た……!来たわ!聖女の奇跡!これから私の無双ターンよ!」 いや、何……?ターンって……! 騎士たちが一斉に身構える。 「悪役令嬢も役立たずの神聖騎士もみんなみんな纏めて……死になさい!」 あ……あく、やく……?またメアリィから訳の分からない言葉が飛び出すが……メアリィから発した光は突然フッと掻き消える。 そして、あれ……私の右手が光っているような……?そこには聖女の印。そしてメアリィの手には今は印の欠片もない。 「これは……」 「か……返してよおおぉっ!私の聖女の印いいいぃっ!それは私のよおおぉっ!」 メアリィがこちらに向かって来ようとする……!しかしその身体を4本の剣が貫く。 「げほ……っ。な……何で……っ、し、せ、きし……」 そう、メアリィを貫いたのは神聖騎士の彼らだったのだ。 「聖女を騙るものを始末するのも我らの義務だ。生涯聖女に仕え、聖女を騙るものには厳罰を」 「い……や、わたじ、せいじょ……わたじが……っ」 それでもメアリィは血を吐きながら私の印を目掛けて手を伸ばす。それもひとときだけでも聖女だったからこその、しぶとさか。 「こうりゃく……まだ……とちゅうヴヴヴ……まだグリアじでないいいぃっ!!え……エンディン、ぐっ」 く……クリアって何かしら……? そして……エンディング……?何の……? 『そんなものは一生来ない』 フィーロが冷たく告げる。 その瞳は……あれ……どこかフィーロとは遠い……違う存在のように思えるのは気のせいだろうか……?さらに黒い神が徐々に白銀に染まっていく。 ――――あなたは、誰……? 『さぁて……地上で好き勝手していたようだが……この世界を生かすも壊すも、それは我が意思。神の領域に土足で踏み込んだ罪は重いぞ』 フィーロの身体で、フィーロではないものが口を開く。生かすも壊すも……って……。 この世界の主神は聖女に加護を授ける神である。しかし光があれば影があるもの。その影を担うのが……。 「……ヴィータ」 その名を口にすれば、フィーロの中の神がフッと微笑みを作る。 『お前のゲームとやらは終わりだ』 フィーロの身体で腕を差し出したヴィータがメアリィの中にある何かを掴む。 「いや、いや……バッドエンドはいやぁ――――っ!」 しかしメアリィの身体から何かの光の球が抜けた瞬間、メアリィの身体がぐったりとして動かなくなる。 一方で光の球からは微にメアリィの叫び声のようなものが聞こえてくる。 『偽物は出ていきな』 すると床に黒々とした門が現れ開くと、メアリィの絶叫と共に、光の球がどす黒く染まり、吸い込まれて行った……。 そうして門が閉じれば、そこには最初から何もなかったかのように元通りになる。 「あー……つっかれた……」 そうして気だるそうに呟くのは、元の髪色にもどった……フィーロそのひとに違いない。
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