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勝者の剣
メアリィの退場、そして何故か私の手の甲に浮かぶ聖女の印。
残されたジルクは目の前で起こった捕り物を、未だ受け入れられないのか呆然としていた。
「さてと、後はお前か」
明らかに疲労の色が見えるのは、ヴィータがその身に降りていたせいだろうか。しかしそれでもフィーロは皇子として、このランゲルシア王国だった地を治める統治者としてジルクの前に立ちはだかる。
「ランゲルシア王国は滅び、もはやイグナルス帝国の属国となった。そしてその統治を任せられたのが俺だ。さらにはロゼはその妃となる」
「な……何で……ろ、ロゼはぼくのものだったはずだ……!何でお前が……あ、父上と兄上は死んだはずだろう!?なら次の王はぼくのはずだ!」
「ロゼが誰のものだと?ロゼを散々苦しめて捨てた貴様のものなわけあるか!」
あぁ……そうだ。そう言ってくれるフィーロがいるから、私も隣に立てるのだ。
「その通りよ。それに……ランゲルシアはもう滅びたのよ。あなたが王になる国などどこにもないわ!」
むしろそんな国があったら民が苦しむだけ!
「な……何だと!?ロゼのくせにロゼのくせに……!」
私だから何だと言うのか。
「それに……そうだ……!」
次は何なのかしら。
「い……イグナルスは属国にした国は……その国の王族に統治させるはずだ……!」
またそんな自分に都合のいいことを掘り出す。
「確かに……そう言う事例もあるが、それは統治するに相応しいものがいれば……だ。そして帝国の皇女や皇族の姫を嫁がせる……と言うのが習わしだが。お前にその資質があるか……?むしろお前みたいなのが王となったのなら、姉上も妹たちも迷わず滅殺するだろうさ」
フィーロが嗤う。第1皇女さまのことは私も聞いたことがある。随分と勇ましい方で、国内外問わず人気があるのだ。しかしほかの姉妹もとなると、帝国では全体的に女性も強いのだろうか。
「お前は新たな新体制に於いて邪魔でしかない。本来、イグナルス帝国は占領地の王族をそこまで駆逐しない。属国の民に反乱でも起こされたらたまったものじゃない」
「な……なら……っ」
この期に及んで助かるとでも思っているのだろうか……?
「だが、ロゼがいれば充分だ」
フィーロが惜しみもなくニカッと笑う。
「はぁ!?ロゼなんかより、ぼくの方が……っ」
「ロゼの愛称を呼ぶな。それから、一番いらねえのはてめぇだよ」
フィーロがジルクに剣を突き付ければ、ジルクと視線が合う。
「た、助け……ロz……ろ、ロゼッタ」
フィーロに睨まれたからか、愛称呼びをやめるジルクだが……誰よそれ。私はロザリアなのだけど。
錯乱して命乞いする相手の名前も言えなくなったのかしら。命乞いの場では致命的よね……?正しく言えたところで助けることなんてないから……。
私はすぅっと息を吸い込み、そして叫んだ。
「お断りよ……!!」
その宣言にジルクは絶望しながらハハハッと弱々しい笑いを漏らす。
「さて……言い残すことはほかにないな……?ロゼへの謝罪なら特別に猶予をやるが……?」
「ぼ……ぼくを助けて……なぁ……?ぼくは……王子で……っ」
「なら、国の滅亡と共にお前も滅びろ」
最期まで謝罪の言葉すらなかった。アレはそこまでの存在だったのだろう。
そしてフィーロの冷たい剣がジルクを貫き……ジルクは絶命した。
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