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ヴェナトール王国
――――ランゲルシア王国は国王夫妻と王子たちの処刑を以て滅亡した。
そして国は元の名を取り戻した。曾祖父の頃の呼び名を。
「ようやっと終わったな」
ランゲルシア王国改め、ヴェナトール王国の玉座に腰掛けたフィーロはふぅと息を吐く。
今は新体制に向けて城中大騒ぎ。まぁ、前宰相は仕事を部下に丸投げであったから、補佐を宰相に格上げし、宰相府は今まで通り問題なく動いている。
騎士団はまともだった近衛騎士団長やトールたちと再編成中だし、長年に渡り偽聖女のほしいままにさせてきた神殿は神聖騎士によってお掃除中。
エレミアスは帝国の属国としての体制に切り替えるために帝国の文官と共にうちの文官たちを指導中。てかエレミアス……文武両道とか聞いてないんだけど。ふざけたように見えて優秀……いや、皇子の側近なのだから当たり前だろうか……?
「殿……っ。いえ、陛下!国境より一報が参りました!」
その時、近衛騎士団長が駆けてくる。
「どうなった?」
「予想通り、アソーモス王国が攻めて参りましたので、皇太子殿下の軍とヴェナトール公爵領騎士団、辺境伯騎士団で完膚なきまでに叩き返したとのことです」
皇太子殿下があそこに陣地を展開していたのは、もしもの時の抑止力、或いは彼処から王都を攻めるため……と思っていたのだが、よく考えれば大軍を率いるのなら公爵領と辺境伯領の協力があっても目立ちすぎるし、確実に国が戦火に飲まれる。実際は貴族や王都民、冒険者たちの協力で、裁かれるものたちが裁かれただけで、たいした被害は出ていない。
なら、皇太子殿下は何故あそこに……と言えば、辺境伯領側の隣国アソーモスがその情報を掴んで、ランゲルシアを帝国に取られないように大急ぎで我先にと進軍してきたところを三勢力で一気に叩くためだったとは……誰が思おうか。
「暫くは茶々入れて来ないさ」
ハハハッとフィーロが笑う。
「そんで……もうひとつ残ってたな」
「そうね……」
その問題がまだ残っているのだ。処理しなくては先には進めまい。
フィーロが合図すると、女性近衛騎士たちが喚きながら暴れるひとりの少女を連れてきた。
「ちょっと放しなさいよ!私は王女なのよ!?」
正確には元王女……なのだが。美しいプラチナブロンドの少女はギリッと玉座を見上げる。
彼女にとって私たちは親兄弟の敵に当たる。彼女たちがしてきたことを考えれば、同情の余地はないが……何を言われても覚悟はしている。
「偽りの王朝であるランゲルシア王家の治めるランゲルシア王国は滅亡し、ヴェナトール王国と国名を元に戻した。お前は既に王女ではない。罪を犯した罪人の一族の娘だ」
フィーロがいつにもまして冷たく告げる。それは……フィーロの皇子……いや王としての顔。
淡々と告げられる事実に、元王女ジョゼフィーナは呆気にとられているわけでは……ないわよね?城の一郭で自分だけ安全なシェルターを見付けて隠れていたところを発見され、事前にランゲルシア王国と王家の滅亡を知らされたはずだ。
彼女は最後に残された旧王家の直系だ。
通常反乱の意思がなければ、イグナルス帝国は無下に属国の王族を殺さないそうだ。
適任者がいれば皇族を嫁がせるか婿に寄越し、治めさせる。
しかし反抗の意思ありと見なしたり、危険と判断した場合は必要な王族を残し、反乱分子は処刑する。今回で言えば国王夫妻と王子2人。
元々曾祖父から不当に王座を奪い取ったものたちだ。当時は隣国との関係悪化を危惧し、旧王家の名だけを冠し公爵家として下ることしかできなかったが、前王家はそれでもヴェナトール家に頼りきりだったのだから嗤えてくる。
そしてイグナルス帝国に組み込まれたのなら、今さら何を恐れようか。隣国も帝国の助力で追い返し、罪人の簒奪した血は改められた。
そうして滅びたランゲルシア王家……のはずが、ジョゼフィーナだけは殺されずにこの場に連れて来られた。
理由は15歳とまだ成人前だと言うこと、それと『何もしてなかった』から。まぁ私にはいろいろしてきたけども。
因みに王族貴族の成人は旧ランゲルシア王国で17歳である。
そして彼女は私への怒りの目をそらし、じっとフィーロを見つめている。しかもほんの少し……頬が赤いような……?
「決めたわ!私、フィーロさまの妃になるわ!」
は……?何を言っているのだ、この少女は。
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