男爵家の謎

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男爵家の謎

――――ヴェナトール王国となった城の王妃の部屋には、メアリィから取り返したお母さまの形見のアクセサリーや宝石が届けられた。そしてそのお使いとして呼んだのは、レベッカとディアナである。 「そうだ、レベッカ。これをずっとあなたに返そうと思っていたのよ」 何だかんだでタイミングが掴めなかったが、ようやっと持ち主に返せた。 「ロザリアさま……!嬉しいです!しかもロザリアさま自ら渡してくださるなんて……みなに自慢します!」 「いや……その、返すの遅れちゃったし……あ、付けてあげるわ」 「そんな、光栄なことっ」 「いいのよ。これも遅れちゃったお詫びよ」 そう言ってレベッカからブローチを受け取り、付けてあげれば……うっすら涙ぐんでる……!?そ、そこまで……っ!? 「その……それとね」 「は、はい……っ」 うう……目を輝かせてくるレベッカがかわいい。 「レベッカが嫌じゃなかったらなのだけど……ディアナと一緒に……王城でメイドをしない?公爵邸のメイド長と侍女長も、賛成してくれたわ」 技能的には、これから侍女教育を施しても構わないし、城に出しても恥ずかしくない……とのことだったが、問題は身分である。城で仕える使用人には貴族の子女が多く、王妃の側ともなれば高位貴族の子女も少なくない。男爵令嬢と男爵家に仕えている平民出身のメイドとあっては……負担も大きいと思ったのだ。 だからあとは本人たちの希望次第なのだが。 「私は是非!」 「私も付いていきます!」 そ……っ、即決ぅ――……。 嬉しいやら何やら。 「じゃぁ、決まりね。準備ができたら、早速王城に部屋を用意するわね」 『はい……!』 うん。こちらにはトールは来てくれているとはいえ、見知った顔がないと何とも落ち着かないのよ。 城での勤務時にジョゼフィーナと一緒に虐めてきた使用人は遠ざけてもらったり、酷いものは解雇、また家が旧王家打倒派に付かなかった場合はその家と共に潰し、平民として一緒に放逐してもらった。もちろん反乱分子ありと見なされた場合は当主夫妻と跡取りが断頭台に消えたけど。 しかし平民として生きるとしても、ヴェナトール王国に付いて来てくれた貴族たちは彼らを受け入れることはないだろうし、雇うこともない。そして彼らが貴族だと知っている領民たちも、彼らを受け入れることはない。大体があの先王たちに付き合って過度な増税などをしていたようだし……自業自得である。 ※※※ ――――こうして城に越してきたレベッカとディアナは先輩侍女に付いて今は侍女見習い兼メイドをこなしているわけだが。 「あ……そう言えばディアナ。ディアナはフィーロのこと……何か感じていたようだけど……何があったか聞いてもいい?」 「えっと……」 「もちろん強制ではないし、本人には言わないわよ」 そう言うと、ディアナはホッとしたように息をはく。平民街で再会したうちの騎士や使用人たちもフィーロの顔を見たけれど、冒険者としては何となく知ってても、まさか国王になるひとだとは知らず恐縮していた。 そしてディアナたちもなのだが……ディアナの最初のフィーロへの印象だけが何となく引っ掛かっているのだ。 「あの……前にもうちの親戚の飯屋で働いていたことがありまして……。その時帝国訛りのあるひとと話をしていて……。ですが相手は冒険者とは思えなかったんです。その時に見掛けた方と似ていたので」 フィーロが以前からこちらに来ていた……?それも帝国訛りの人物と一緒に……。元来警備体制がどんどん弱体化していったランゲルシアは間諜も紛れ込んでいた。隣国に手を出されなかったのは、お父さまが亡きあとは、好か不幸か……帝国が影にいたこと。今となっては好だけれどね。 「それでもよく覚えているのね」 「これでも記憶力は人一倍ですよ」 思えば、仕事もすぐ覚えたのよね。貴族教育を受けていたレベッカにも劣らぬほどに。 「それにほら、ディアナは記憶力はすごくて。その……メアリィのことなんですが」 レベッカが後半を申し訳なさそうに告げる。 「構わないわ、レベッカ。教えて?」 「は……はい!その、以前うちの男爵家に押し掛けてきた平民の少女がいたそうで……私は詳しくは覚えていなかったんですが、その時の少女に似てると、ディアナが」 「え……だとしてもどうしてメアリィがレベッカの実家に……?」 「メアリィが偽聖女として処刑されたと言うこともあって……改めて実家に聞いてみたんです。そうしたら……自分は父の庶子で、将来は聖女で公爵令嬢になるのだから、養女にしろと詰め寄ってきたらしいんです」 「……めちゃくちゃね」 しかしメアリィっぽいと言われればぽい。 「でも父は母を深く愛していましたから、あり得ないと、彼女の母親と共に領地の外に追い出したそうです」 聖女として迎えられた時は孤児だったから……その後母親はどこかでなくなっていたのね……。 「その後メアリィが聖女になった時、父は先先代公爵さまに相談したところ、私たちのことは覚えていなかったようで、私の家名を聞きもしませんでしたから。こっそりとその家名を出して探ってみても、まるで知らないようでした。そして何かあった時は何とかすると仰っていただけたそうです」 思えばレベッカは私の側に仕えて、メアリィとは距離を置いていた。メアリィが気付いていなかっただけで、そんなことが起きていたのか。 ――――しかし、かつて庶子だと名乗り出た家の名も知らないのは……妙ね。まるで適当に選んだかのような……。 「ねぇ、誰か他に男爵家の子女はいないかしら」 ちょっと思い付いたことがあって、ほかの使用人たちにも声をかけてみた。 「でしたら、確か宰相府に私の実家の一門の男爵令息がおります」 教えてくれた侍女長は、私が家柄的にも人柄的にも問題ないと選んだ高位貴族夫人だ。しかしあのジョゼフィーナのやることだ。口うるさいと王城から追い出してしまったそうな。 よく気が付きみんなを纏めあげてくれるいい侍女長なのだが。しかし贅沢三昧我が儘なジョゼフィーナが相手なら、彼女が苦言を呈するのも分かるわ。 そして情報を集めたところ、メアリィと思われる少女の突然の庶子です襲撃は各地の男爵家にあったと言うことが分かった。むしろ隠し子騒動は珍しいものではなく、一部の平民が金品欲しさに行うこともあるのだとか。 だからディアナのようにはっきりと特定できるのはすごいと言っていた。みなもしかしたら……と言う程度だったから。 だが家門の上位貴族に被害を報告した場合はその貴族の証言や平民にしては珍しい毛色だったと言うことであり得るかもと言う判断が下ったのだ。 やれやれ……メアリィは聖女になって公爵令嬢を騙ったり、男爵家の庶子として養女になろうとしたりと……本当に何がしたかったのかしらね……? ――――その、クリア……と言うものかしら。
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