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ひとりきり
無実の罪で大切なものを奪われ、そして神殿を追い出されてしまった。
臣下たちは抵抗しようとしてくれたけど、ジルクとメアリィの手前、彼らまで職を失わせるわけにはいかない。さらには神聖騎士までいる場で……どうなるか分からないもの。
だから彼らには逆らわないようにと手で制し、そして神殿を後にすることとなった。
だがせめてもの情けだとジルクから差し出されたのは、メアリィがうちで着せられていたという粗末なワンピースである。
いや……こんなワンピースを着ているところは見たことがないけれど。
もしかしたらお務め先の神殿で支給されたのかもしれないが……少なくとも邸にはなかったはずだ。
使用人としてのお給金などはあのこが癇癪で破壊したうちの調度品などに充てられて、ほとんど自由にできるお金はないが……自業自得と言うほかない。
最初はほかのメイドたちが着なくなった服をメアリィに譲ってあげていたが、それでは満足できないと、新品の服や高い服を勝手に盗み出したのだ。
全て持ち主に返し終えたら、なんとお仕着せしか残らなかった。まさか全て盗んだものだったとは……。あとは最低限の寝巻きくらいしか与えていないはずだ。それだけでも感謝して欲しいものだが……あのこは聖女で、王命だから逆らえない。
それならばせめて神殿でと言いたいが、国王陛下は貴族としてのマナーを身に付けさせるためだとうちに寄越してきたのだ。
平民出身の聖女に……何故貴族のマナーを身に付けさせるのか。聖女を手元に置いておきたいから、高位貴族と結婚させたかったのか。
ならその結婚相手の家で預かればいい。どうせ浮気をしてジルクと結ばれるのなら、王家で責任を持って預かれば良かったのだ。
けど、かつて宰相だったお父さまが不慮の事故でなくなられてからは、私ではなかなか前に出られなくて。お父さまが行ってきた交渉も私の代でストップしてしまった。
いきなり多くの高官に囲まれて公爵家の義務だと責められるだけ。何故、私が。ヴェナトール公爵家が責められなくてはならないのか。見かねた家令やうちの騎士団長が庇ってくれたけれど、今度は彼らを不敬だと処罰を望んできた。
だから彼らへの処罰を不問とするためにも……メアリィを受け入れるしかなかった。
でも、できることといえば、メアリィを使用人として適切に扱い、行きすぎた行動があればそれ相応の対処をすること。
だが、どうしてか、メアリィはジルクと関係を持っていた。ジルクとは城で会うことがほとんどだったから、うちには来ていないはず。
だとしたらメアリィのお務め先の神殿で逢瀬を重ねていたのだろうか。
呆然とする中、馬車に向かおうとすれば、聖騎士たちが止めてくる。
「ヴェナトール公爵家は既にジルク殿下のもの。あなたが使うことはできません」
「……っ」
「ご自分の足で歩いて出ていってください」
「……っ」
そんな……っ。絶望にも近い宣告。
帰る場所も失い、私は一体どうやって生きていけばいいのか。
むしろ……野垂れ死にさせることが……目的……?メアリィは聖女だと言うのに、何故こんなひどいことを平然と行うのだろうか。
聖女を大切にしないと国が傾く。そう伝承では伝えられているが、聖女が傍若無人に振る舞っていいだなんて、一体誰が決めたのだ……。
かつて稀有な力を持つと言うだけで地上を追放されたと言う『ヴィータ』も、こんな気持ちだったのだろうか。
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