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祈りの間
――――王都大神殿
ここは結婚式以来ね。
しかしあの時と大きく違うのは……。
「お待ちしておりました、聖女さま」
フィーロと共に神殿まで赴けば、出迎えてくれたのは神聖騎士のひとりであるリックだ。
「聖女さまはよして。ロザリアよ」
「光栄です。ロザリアさま」
リックが騎士の礼をすれば、フィーロがむすっとする。うん……?何にむすっとしたのかしら。
「言っとくが、ロゼ呼びは許さんからな?」
そ……それを言いたかったの!?
「もちろん、我々が犯した罪もあります。わきまえております」
リックが深く陳謝する。
まぁ……一時と言えど、対峙したわけだしね。
「お互い、いろいろと事情があったのだから仕方がないわ」
あなたたちはメアリィの何か妙な力で操られていたのだもの。
今は味方として頼もしい限りだ。
「寛大なお言葉感謝いたします」
彼は優雅に礼を返してくれると、早速中に案内してくれた。
神殿の中は以前のような居心地の悪い視線は感じられない。結婚式の時は護衛としてついてきてくれた騎士がいたとはいえ、睨まれているように感じたのだ。メアリィが私の悪口を広めていたのだろうか……。しかしメアリィは普段から神聖騎士に酷いことを言っていたはず。
どちらにせよ神殿でも態度は変わらなかったのでは……?と思うものの、元々は神殿で面倒を見なくてはいけなかった聖女である。聖女と言うのは、王都に家がない限りは王都の大神殿に部屋を用意し寝食の場を与えることになっているから。
結局は偽聖女だったものの、王命で仕方なく預かっていたうちに感謝して欲しかった。
「上層部は神官長を含めて入れ替えておりますのでご安心を」
「ありがとう」
リックの言う通り、今は様変わりしているようで、厳しい目もなく呼吸が楽である。
さすがにメアリィを押し付けた共犯の前神官長を相手にするのは御免だし、彼ら神聖騎士たちも徹底的に改革してくれたようだ。
そしてリックに紹介してもらった神官長はまだ若いが物腰柔らかだ。何でも前神官長によって地方に追いやられていた有能な人材を呼び戻したらしい。
「そう言えば……前神官長や解任になった神官たちはどうなったのかしら」
ここを追い出されたとはいえ……神職ならほかの神殿に左遷になったのかしらね……?しかしメアリィを野放しにした前神官長が素直に左遷されるだろうか?
「その件なのですが、我ら神聖騎士含め大神殿のものたちにも聴こえるように女神さまが破門を言い渡されたので、これからも神職を続けるわけにも行かず、出ていかざるを得なかったそうですよ」
女神さまが直々に……!?それって結構すごいことなのでは……?
むしろ奇跡とも呼べるわよ。
そして破門を言い渡されたのなら、国内外全ての神殿から追い出されるわねぇ……。自業自得だけれど。
――――しかしそれなら、今までどうして女神さまはメアリィを聖女としてほしいままにさせていたのだろう。あれ……?何か、引っ掛かる言葉がなかったかしら。
「祈りの間に行こうか」
そう、フィーロが短く告げる。フィーロはある一方向を静かに見据える。その目は間違いなくフィーロのものなのだけど、一瞬別の誰かを感じてしまったのだが。
「こちらです」
リックが案内してくれる先は、フィーロがじっと見据えていた方向だ。
「祈りの間……聖女の印があるから、挨拶には行かないとね。女神さまに」
「……そうだな」
フィーロはクスリと微笑む。
「……女神に」
その言葉はどうしてか別の意味を含んでいるような気がしてしまうのは……どうしてだろう……?
そうこうしている間に扉は開かれ、祈りの間の扉が開かれる。私は跪き祈りのポーズをとり、リックも跪いた。でもフィーロはどうしてか立礼である。しかしそれは……どこか正しいのだと思えた。
『よく来てくれました、聖女ロザリア』
その声は、紛れもなく女神さまの声である。この聖女の印がそれを教えてくれた。
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