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道中
――――私たちは今、イグナルス帝国本土を移動している。今回は属国となって初の本国での公務に向かうところなのだ。
「建国祭に招いていただけるなんて光栄ね」
「まぁ、属国としては宗主国に従順ですよと言うアピールの場だ。もちろん本国の国民にとっては祭の季節だから賑わう」
「街の雰囲気も気になるけど……そうよね、アピール大事!新参者ですもの!」
「虐められたらすぐ言えよ?叩きのめしてやる」
「いや……それはさすがに。フィーロのご兄弟の治める属国かもしれないのよ?」
「兄弟だろうとアホなことをやるやつを放置すればアニキたちから容赦なく叩かれるよ」
それは……言い方からして多分皇太子殿下から第3皇子までの方々ね。
「できるだけ皇族のみなさまのことも覚えたのよ」
属国になったからか、以前よりも資料をもらうことができた。お披露目していない皇族は名だけだったが。
「ロゼは勉強熱心で偉いな」
「フィーロの妻として、恥ずかしくないように振る舞わないと!」
そう気合いを入れれば、どうしてかフィーロがぎうっと抱き締めてくる。
「あの……フィーロ?」
「ロゼがかわいすぎてどうしよう」
はい――――っ!?か、かわいすぎるとか……。
「そうだ……ついでにデートでもするか?」
「えっ、で、デート!?」
「街を見て歩くのも、たまにはいいだろう」
「そりゃぁ……でもスケジュールは……?」
「少しくらいなら……任せろ」
「そ……そう?無茶はだめよ?」
「あぁ」
それでも少しだけ……楽しみだわ。……そう言えば。
「……その、もういいでしょ?」
「ううん、まだ」
そう言ってすりすりとしてくるフィーロがご機嫌で、そんな顔見たら……断るに断りきれないじゃない。
それは本日の宿屋に到着するまで続いたのだから……んもぅ。
「毎日眼福です」
宿でお茶を出してくれたレベッカが嬉しそうに微笑む。今回の帝国行きには、共についてきてくれた侍女のリディアもいる。リディアは実家が貿易も盛んに行っているので国外の知識も豊富なのよね。この前のパーティーの後にスカウトしたのだ。
それにレベッカとの相性もいいようだし。因みにディアナは侍女長たちと留守を守っていてくれている。
フィーロはエレミアスや護衛たちと共にこれからの旅程の再確認に向かっている。
それから護衛たちに混ざり……。
「ロザリアさま」
「リック?」
神聖騎士のリックも一緒である。本当は全員が……と言う話もあったのだが、国内の神殿のこともあるのだからと話し合い……代表でリックがついてきてくれた。
「フィーロさまより、少し時間が取れそうだから準備して欲しいと」
時間……、あぁ……、そうだっ!
「旅装だもの、このままでも……っ」
「ダメです!」
「お化粧直してからですよ!」
レベッカとリディアの目が本気ぃっ!
そんなこんなで……フィーロと合流した。
「来たか」
「うん」
フィーロも私も旅装でそれほど華美にはしていない。それにこれから少しだけ街を見る時間がとれたのだ。
「少し見て行こう」
「ええ」
思えば帝国の街だなんて初めてだ。
「帝国ではどんなものが人気なのかしらね」
少し見ただけでも、屋台には王国ではあまり見ないものが並ぶ。
「串焼きなんかはうまいぞ」
「串焼き……。……詳しいのね?」
皇子さま育ちのはず……よね?
「俺が冒険者なのを忘れたか?」
「……あぁっ」
思えば潜入しときながら冒険者として顔が知られるほどだったっけ。
……と言うことは。
「街歩きの口実……」
「ギクッ」
フィーロったら。冒険者と言う肩書きはこうした市井を見て歩くのにも使っているみたいね。そう考えればフィーロの顔が知られていないのは今までの職務上以上に、フィーロにとっては便利なものだったのかもしれない。
「ほら、ここら辺はきっと旨い」
フィーロが取り繕うようにおごってくれたのは、香ばしいタレの塗られた丸い具の列なったものようだが……。
「もちもちしてて……タレもあまじょっぱくて美味しいわ」
「だろう?」
フィーロの日頃の街歩きはこう言った目利きにも役立っているらしい。
束の間の街探索でもあったが、肌で感じる街の空気や民衆の活気、美味しいもの……、何よりフィーロと過ごせる時間は大切な宝物である。
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