151人が本棚に入れています
本棚に追加
建国祭
――――翌日。
建国祭の式典は午後から始まり、そして夜は建国を祝うパーティーである。
「まぁ、素敵なレースね」
「ヴェナトール王国の伝統的な刺繍で仕立てたレースでして……」
ヴェナトール王国の伝統的な布織物に加え、レースやアクセサリーを身に付けて式典に出席してみれば、儀礼的なプログラムが終わるなり、属国の王族の妃夫人方に囲まれてしまった。
うん……?新参者だもの。もうちょっと厳しい目で見られると思っていたら……何故。
「やっぱりこれだわ!」
「幻のレース!」
「どこで手に入れられるのかしら!?」
う……うおぉう……?
これ、諸外国ではそんな風に思われていたの……?
「ブルーマーレ商会をご紹介しますね」
リディアの実家の貿易商会である。うん、大丈夫。リディアの父親の侯爵だって商売儲かって大助かり。入手ルートについては商会で担うとリディアからも言われてるし、バンバン振っちゃおう……!
「ずいぶんと人気だな」
ご夫人方に囲まれていれば、ふと聞き慣れた声とともにフィーロがやって来る。隣にいる女性は……、まさか。いや、周りの夫人方もすかさず頭を下げているから……っ。
慌てて頭を下げれば。
「みんな、顔を上げてちょうだい」
どこか勇ましいような声がかかり、顔を上げればそこにはとても美しい女性がおり、その格好はドレスではなく男装であるが……この方は。
「こうしてじっくりと顔を合わせるのは初めてだ。ロザリア妃」
「こちらこそ、こうしてお会いできて光栄です!ヴィオレット皇女殿下」
イグナルス帝国の第1皇女殿下である。
他国であってもその噂も功績も届く。武勇ほまれ高く、憧れる女性は国籍を問わない。
「なに、お義姉さまと呼んでいいよ。私もロゼちゃんと呼ぼうかな」
「はぇっ!?」
そんな、光栄な……っ。
「おい、勝手に呼ぶなよ。あと何だお義姉さまって」
しかしその時フィーロの悪態をつくような不機嫌な声がかかり、皇女殿下の表情と周りの空気が凍る。いや……いくら姉弟だからって何て態度を……!
「コラッ!お姉ちゃんに文句言わないっ!」
次の瞬間ヴィオレット皇女殿下がフィーロの頭をペシイッと叩く。あれは皇太子妃殿下のよりも確実に重い一撃よね……?
「何だよその恐怖姉政治はっ!あと、いい加減ロゼを返せ」
そう言ってフィーロはご夫人方の中なら私を回収する。
「ちょ、フィーロ!外交!商売!商魂っ!」
後でブルーマーレ侯爵に説教されても知らないわよ!?
「ロゼが俺の腕の中にいるのが大前提だ」
何その前提は……っ!?
「仲がよくて何よりだが……フィーロが面白いから今度みんなでお茶しに行こうかな」
「いいですね!お義姉さま!」
「ぜひ私たちも!」
そうあははと笑うヴィオレット皇女殿下に夫人方が賛同していく。そうか。思えば彼女たちの夫も皇子か皇族。義理の兄弟や親戚になるのね。
「賑やかでいいわね。その時は張り切ってお迎えしなくちゃ」
「いや、ロゼはそれでいいのか。あの姉は来るぞ?本当に」
「大歓迎よ!今度は食べ物もアピールしましょう!リディアの実家も扱ってるかしら……?今度は国内の商会にも入ってもらって……ブルーマーレ侯爵に紹介を頼もうかしら」
「……お前は……全く。ま、気に入ったならそれでいいが」
「もちろんよ。とっても素敵な出会いがたくさんよ」
「でも、俺を忘れんな」
「忘れるわけないじゃない」
少し不満げな旦那さまはやっぱりかわいいなぁ。
そんな私たちの様子を微笑ましく見守るギャラリーがいつの間にか増えていたのは……余談だが。
今回の公務と言うか、商戦と言うか。国内の魅力のアピールは成功したのか、ここ数年低迷していた王国経済が回復しつつあるのは確かである。
最初のコメントを投稿しよう!