捨てる神あれば拾う神あり

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捨てる神あれば拾う神あり

――――影法師が伸びる。夕暮れ間際の王都。 朝陽は神の象徴と言うけれど、夕暮れはヴィータの象徴で、陽が完全に沈むとヴィータの蹂躙の時間がやって来る。 夜ちゃんと寝ないとヴィータがやって来ると言うのは、子を寝かし付ける時に使われる。 そう言う意味では身近と言えば、身近だけれど。それは世界に破壊をもたらす力を持つ半人半神の存在。彼を恐れ、人間は昼間に行動するようになったとも言われるが……夜勤のものだっているのだから、そんなこと言ってられないわよね。 けど……。 「ヴィータも寂しかったのかしら」 それはそうだ。 ひとり、その力のせいで悪とされ地上を追われた。彼は今どこにいるのだろうか……。神の世界に帰ったのか……そこまでは伝わっていない。 てくてくと、ヴィータを彷彿とさせる夕陽に向かって歩く。 しかし王都は当然ながら広い。ひとの足で歩くにしても一苦労だ。けれど実家の馬車もない、乗り合いの馬車にのるお金もない。 それから貴族令嬢が歩くには……厳しすぎる。 その時、私の影法師に大きな影が重なる。 「なぁ、お嬢ちゃん」 突如降り注いだ見知らぬ男の声に恐怖を帯びる。 「ひとりかぁ?何かいい匂いがするなぁ……もしかして……貴族か……?」 ビクンっ。こんな粗末なワンピースでは、気付かれにくいと思っていたが……。 この髪は色褪せたように淡いとは言え、珍しい髪色だし、ケアは上位貴族の娘のもの、肌もそうだ。さらにレモンイエローの瞳なんて、平民には珍しい。 服だけ取り繕ったって、すぐに見破られる。 「ひっひっひ……っ。今日は金になりそうなのを見付けたぜ!ラッキーだなぁ……!」 か……金に……っ!?こ……殺されるかもしれない……!逃げなきゃ……っ!けど、踏み出そうとすれば恐怖でよろけて地に膝をついて擦りむいてしまう。 「……っ」 「おい、逃げんじゃねぇぞ」 大きな声が、背中から迫ってくる……。恐い……どうしようもなく恐い。でもきっと……誰も助けには来ない。 「やめろ」 その時、違う男の……青年の声が響いた。 誰……? 「俺のことを知らないわけじゃないだろう」 そう青年が告げると、今まさに私に迫ろうとしてきた男が『ひいぃっ』と悲鳴をあげる。そして男が駆けていくその音が遠ざかれば。 「おい、大丈夫か」 肩に触れる感触は、思った以上に優しい。ゆっくりと顔を上げれば、珍しい黒髪に深い藍色の瞳の青年がいた。 ゆっくりと上体を上げるも、足は動かない。 「悪いな。ちょっとばかし追手を振り払って来たから遅れた。立てるか?」 「……」 それはまるで迎えに来たような言い方。彼が……どうして……? ふるふると首を振れば、次の瞬間、身体がふわりと浮き上がったと思えば、青年の顔が真横にあった。 「ひとまず、どこか休める場所に移動しようか」 「……でも」 「どうした?」 「狙われる……かも」 私は貴族の娘……だったのだから。見た目で珍しがられるかもしれない。 親切な彼まで巻き込むわけには……っ。 「心配するなよ。俺はこれでも顔が通っている」 そう言えばさっきの男も、青年に脅えてた。 「あの……」 「フィーロでいい。お前は?」 「……ロザリア……ロゼでいい」 「分かった。ロゼだな。それじゃ、俺の隠れ家に急ごうか」 隠れ家……?フィーロは太陽のように笑うのに、隠れなくてはいけない理由があるのだろうか……? だが、抱っこしながら運んでくれるフィーロの腕はとても温かくて、優しくて。 身体に降り注ぐ夕陽はまるで子守唄のように眠気をもたらしてくる。 こんなに安心すると思えたのは……いつぶりであろうか……?
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