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レベッカとディアナ
フィーロが追加のメニューを頼むと、店主は快くレベッカとディアナと話す時間を作ってくれた。
レベッカとディアナが私たちの前に腰掛け、料理をいただきながら、話をすることになった。
そしてレベッカが口を開く。
「実は、ロザリアさまが結婚されるはずだった日、馬車が戻ってきて……私たちは結婚されたロザリアさまが、その……あの男と降りてくると思って出迎えたんです」
まぁ、ここでジルクの名前を出すわけにもいかないのだろう。それと、恨みも相成ってその表現になったのだろう。
「でも馬車を降りてきたのが……ロザリアさまの花嫁衣装を着たメアリィだったんです……!ダリルさんがロザリアさまはどうしたのか聞くと、そんな女はもう公爵家にはいないと……あの男が。しかも、付いていった護衛の騎士たちも、何も言えず……帰ってくるしかなかったと」
ダリルは家令の名である。そしてジルクは当たり前のように公爵として振る舞い出したのね。
「そして、あの男は公爵を名乗り、自分が連れてきた侍従と近衛騎士を邸に招き入れ、メアリィは聖騎士たちを連れてきて言いました。女はいらないから、即刻解雇、出ていけと」
「……酷い」
そう言ったことをする貴族がいるとは聞いたことがあるが、まさか自分の家の使用人たちがそんな目に遭うだなんて……。
「そして私たちは荷物を纏める間もなく追い出されました。メアリィは全部……自分のものにするために……っ。私がお母さまにもらった成人祝いまで、奪っていきました」
レベッカがうちに行儀見習いに来る際にもらったと言っていた、いつもつけていたブローチね。そう言えばメアリィはそれも欲しがったそうだ。使用人の立場だったから、ダリルが止めてくれたそうだけど。……今、レベッカの胸元にそのブローチはない。涙ぐむレベッカを、ディアナが優しく抱き締めてあげている。
「幸い……ここは私の親戚が切り盛りしていたので、私はレベッカと共に、ここへ」
そうディアナが語る。そう言うことだったの。レベッカの実家は小さな男爵家だ。王都に滞在するにしても王都に邸はなく、ほかの門下の邸に宿泊を頼むと言っていた。
「ほかのみんなも、それぞれ一門や親戚のところへ避難しています。王都を離れ帰省するだけのお金も持ち出せず、ロザリアさまの行方も分からない以上は、誰も王都を離れたがらなくて」
みんな……私のことを……っ。
「でも、一門は……大丈夫なの……?」
公爵家はもうジルクのものである。ジルクが命じれば門下は従うことになる。もちろん……国王陛下からの命があればそちらが優先だが、この状況で英断を下す国王でもない。
「実はメアリィの命をあの男が門下にも伝え、命令したそうです。門下からも女を追い出せと」
横暴すぎる……。彼女たちにも生活があるし、彼女たちをメアリィの我が儘で解雇したら、彼女たちが請け負った仕事を、一体誰が担うのか。
「門下たちは反発し、絶縁状を叩き付ける勢いらしいです」
やはりそうなるわよね。
「でも騎士団はどう?」
公爵家の騎士団は、国の防衛の一端を担う勢力を持つ。元々は国の兵力が弱体化し、うちが兵力を維持し続けていたから、逆転してしまったのだ。けれど国に合わせて弱体化するわけにはいかない。うちはイグナルス帝国との国境を抱える領地を持つのだ。弱体化しては、同じく他の国との国境を有する辺境伯家に負荷がかかりすぎるから。
そしてその軍備の一部は、公爵邸の警備のため、王都にも常駐している。
「あの男とメアリィに反発した一部の騎士は、解雇されました。騎士団長のトールさんもです。でも一部の見目麗しい男の騎士だけは、近衛騎士や聖騎士と共に残されました。ダリルさんはさすがに残っていますが、ほかの男性の使用人も、同じく」
メアリィはそんなことをして何がしたいのかしら……。
「邸に残っているみんなも心配だけど、解雇されたと言う……トールたちは?」
「トールさんたちも門下や親戚を頼って何とか。でも、ロザリアさまが見付かったのなら、やっぱり……」
「そうよね、ディアナ」
ディアナとレベッカが顔を見合せ、頷く。
「正統な後継者のロザリアさまがここにいらっしゃるなら……取り戻しましょうよ!」
それは……、私も……。
「でも……」
私が正統な血筋でも、どうにもならない。わたしのために王都に残ってくれているみんなを助けたいのに、その力がない。もしもみんながむりやり公爵家の奪還に動けば、王命に逆らったとして謀反となる。
私ひとりの命ではとても……助けられない。
「……お前らの話は分かったが」
そこで、フィーロが口を開く。
「そこから先は、よしておけ」
やはり、フィーロにも分かったのか。レベッカたちが望むことが、謀反になることを。そしてレベッカたちも悔しげに俯く。
もう私たちにはどうにもできないのだろうか。
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