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異世界生活は転生と共に
異世界に転生しました。
そんな実感が湧かないうちに、俺は目が覚める。
転生した記憶がこの体に流れ込んでいるらしい。
「なんか、長い夢を見た気がする。」
前世、とでもいうべき地球での生活。
その記憶が本当かどうかなど関係ない、明確に感じたのは夢から覚めた実感と20年余り生きた人生と決別を行う死のみ。
欠伸をしながら、ゆっくりと宿屋のベットから降りた。
「転生しても、こんなもんなのか。」
そんな気分に襲われ、柄にもなく感傷的となる。
転生した実感は死の記憶で塗りつぶされ、新たな人生の旅路はこの体で記憶なく生きてきた俺の記憶によってありふれた物にしか感じなくなった。
どう足掻いても、新鮮さはない。
「とりあえず、飯食うか。」
その独り言に釣られるように、体から音がなる。
存分に空腹なようだ、健康そうで結構な話でもあった。
この体の年齢は18歳程度、正確な年齢は不明。
平々凡々な人生を送っているようだ、山無し谷無しと言い換えてもいいだろう。
随分な話、そう言いたくなる口を閉じ宿屋の階下に降りていく。
この世界の俺基準では、いつもより20分ほど早い行動だ。
だが日本が基準の感性である今の俺なら、非常に遅く感じるものだ。
「おはようございます、今日はお早いんですね。」
まだまだ人がまばらな時間帯、この宿屋の一人娘(20歳既婚者)である彼女がにこやかに声を掛けてきた。
気まぐれで手を振り、そのまま適当な椅子に座る。
その行動を見た彼女はカウンターの奥に入っていき、自分の母を呼んだようだ。
今ここにいる人間は多くない、自分を含めても精々四人に届くかどうか。
その中の二人は端っこで酔い潰れている馬鹿どもであり、残った人間はこの宿屋を運営する側の人間。
事実上の客は俺だけだ。
「注文はどういたしますか?」
「とりあえず、ベーコンスープにパンで。」
いつも通りの定番メシ、これを食わねば一日はやっていけない。
そんなふうに考えつつ、そういえばとこの世界の最大長所であるスキルを連想する。
スキル、もしくは神の慈悲。
全ての人間、生物に与えられる奇跡。
超常現象を起こすのに必須とされるモノで、原則一人一つしか獲得できない。
発現は10歳になった頃、唐突に発生すると言われており俺のスキルは生活だった。
「クソでもなければ優良でもない、ホント微妙なスキルだよ。」
何せその効果は、生活要素の具現化に他ならないからだ。
例えば料理、料理を行うために生活スキルを使えば鍋や包丁に竈の火まで現れる。
逆を言えば、それしか生み出せない。
生み出したものはこの世界に半永久的に残り続け、摩耗か消すことを考えなければずっと存在し続ける。
逆を言えばそれだけ、そんなスキルのどこが優秀なのか? そんな疑問を抱きながらふとタバコを吸いたくなる。
タバコを吸う、俺の前世での生活に組み込まれた習慣にして数少ない俺のストレス解消法。
青いパッケージに入った美味いとも言えないあのタバコ、こんな風にポケットから取り出し100円ライターで火をつけて……。
「ぷはぁ、異世界でも味はかわら……。」
ちょっと待て? 道徳的に考えて室内でタバコを吸っているのはおかしい。
だがそれ以上に、なぜ俺は今タバコを吸っている?
ふと、手を見る。
そこには一つのパッケージ、そして百円ライターと火のついたタバコがあった。
「マジかよ、コレ。」
笑い話だ、そんな風に思ってしまう自分がいる。
まさか地球の産物を異世界に持ち込めるなんて、笑い話以外に何も言えないい。
だが、俺は冷や汗を掻きながら言葉にする。
「異世界生活は生活スキルと共にあれば最強じゃねぇか。」
もし予想が正しければ、このスキル……。
味噌や醤油はもちろんのこと、米なんかの生活に必須と言っていい食料系の消耗品や。
パソコンや電子レンジ、IHやガスコンロなんかも異世界に持ち込めることとなる。
そして、今後の生活習慣を変えていけばそれ以上もいける可能性が存在しており……。
俺は無限の可能性と、字面だけは平凡なチートスキルに目を輝かせた。
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