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第一章 カップの6
「御子さん。いい加減に部屋へ戻って下さいよ。僕が独りじゃないとカードをリーディングできない事を知ってるでしょ?!」
章は痺れを切らして少し怒鳴り口調で御子に言った。
「う〜ん、今日だけはあの男を捕まえたいから待ってくれ。」
御子はどうしても自分を騙した男を恨む・・・憎しみが取れないようだ。
そもそも御子が男に対してマイナスな感情ばかり抱くようになったのも、悲しい過去を背負っているからだ。
今から2年前。御子には大人になってあとにも先にもこの人だけと言える程、本気で愛した男が居た。しかし男には妻子があり・・・不倫という概念は好きでは無い御子は誘いを断り、友達以上恋人未満の関係を貫いた。
しかし相手の男が御子に気持ちが無くなると、意図も容易く離れて行った。別れ際に暴言を浴びせながら。
それ以来御子は男性不信・・・男性に対し怒りを持つようになった。そしてその男との思い出が新たな恋を拒んでいた。
「御子さん。僕は明日、タロットカードのみのテストで1位を取りたいんです。そのテストに1位で合格しないとオラクルカードのテストに進めないんですよ~。練習させて下さいよ。」
それでも御子はリーディングを止めない。御子にとって章は唯一信頼を寄せる男性だが、自分を騙した男を昔の男とダブらせていて、章の声など眼中にない。
暫くして。
「わかったよ。止めた。やっぱりあんな男をいくら占ったって愚者しか出ないから。あんな遊び人みたいな男の為に時間を費やすのは無駄だった。」
「御子さん。そろそろ2年も経つんだから、昔の事は忘れて新しい男性と真剣に交際して下さい。意外と近くに良い男はいるものですよ。」
章は御子に好意を寄せていた。しかし御子の過去を知っているから安易に手を出したくなかった。御子を傷つけたくなかったからだ。
御子は毎度の事がと言わんばかりに、
「はいはい。わかりました。良い男ねぇ~。ホントに居るなら連れて来てほしいものだよ。」
すると章は、
「じゃ僕がタロットとオラクルとルノルマンで占います。この世界は占った事が必ず現実になるから、良い結果を出して御子さんの過去を塗り返してみせます!」
章は御子は座っていた食堂の席に向かい合って座り、黒い革のバッグからカードを出し始めた。
まさかこの占いがふたりの関係に泡ゆくも切ない結果を導くとは知らずに・・・
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