戦友になるのだ

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戦友になるのだ

* * * この国では結婚式の直前で花嫁が実家で見送られるという習慣がある。 貴族は、少し大きなパーティーをするのが普通だ。 当然、公爵家ともなればかなりの規模のパーティーをするし、王族も招待される。 第二王子に婚約を破棄された公爵令嬢の見送りのためのパーティーの招待状がジークハルトとヴィオラの元に届けられた。 婚約を破棄した張本人である第二王子が参加するわけにもいかない。 国王自らが参加するというまるで他国の国賓クラスの様な対応もできない。 見送りパーティーには公爵令嬢の現婚約者である他国の王族は参加しないのだ。 その微妙なパワーバランスを考えてその場に臨むのが、第一王子たるジークハルトとヴィオラなのだ。 公爵邸で行われている煌びやかなパーティーの様子にヴィオラはジークハルトにエスコートされながら思わず目を瞬かせる。 最高級の調度品に最高級の料理。それに招待客もみな有力者ばかりだ。 その中に王妃陛下がいた事にヴィオラは驚いた。 ちらりと見たジークハルトは相変わらずおとぎ話の悪い狐みたいな笑みを浮かべたままだ。 少し前に聞いた、家族を疑わねばならないのが辛いという言葉をヴィオラは思い出す。 彼はこのことを知っていたのだろうか。 王妃陛下と公爵令嬢が楽しそうに会話をしている。 辺りには人が集まっていて、このパーティーの中心があの二人だという事がよく分かる。 そこにもう一人、とても美しい人がいた。 透き通る様な肌にきらめく髪。 ドレスは繊細なレースで彩られていて、すさまじい金がつぎ込まれていそうだとヴィオラは思った。 それに、あの意匠はこの国のものではない。 神話になぞらえたその模様を(まと)う事ができる人間は限られている。 視線で確認するとジークハルトは「そうだよ」と答えた。 上流階級で行われる会話は主語が無いことがある。 その典型の様な返事にヴィオラはため息をつきそうになる。 彼女が“妖精姫”なのだ。 公爵令嬢の婚約破棄は明らかに王家に瑕疵がある。 だから彼女は堂々としているし、公爵家も堂々としている。 そのためジークハルトも強く出ることはできない。 けれど彼の元婚約者であった彼女は違う。 ジークハルトに瑕疵はない。 あるとしても彼が以前言った通りの、何もしなかった罪の話になるのだろう。 当たり前の様にこの場所に彼女がいることは王家にとって反発していると表明してしまうことに近い。 少なくともこの場に呼ばれたジークハルトを軽く見ていることだけは確かなのだろう。 「私だけは、絶対に裏切りません」 ジークハルトにだけ聞こえる声でヴィオラは静かに彼に伝えた。 彼の選んだドレスを着て、彼の隣に立つ。 ヴィオラはそれだけで勇気づけられる様に思えた。
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