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気持ち3
室内は完全にジークハルトとヴィオラの二人きりだった。
彼の寝息は一定の速さで、隣に人がいるというのにヴィオラはちっとも不快ではなかった。
穏やかな午後。準備してもらった本を読む。
どの本も装幀がとても美しいし、読んだことの無い本だった。
夢中になって読んでいるともたれかかった体重が少しばかりうごめく。
ジークハルトが目を覚ましたのかと本をおいてそちらを見ると、彼が軽く身じろぎをした。
ぼんやりとしたアイスブルーの瞳と目が合う。
二度ほどジークハルトは瞬きをする。
寝ぼけているのだろうか。
しゃんとしてる時に目を細めていて、寝ぼけている時にはむしろ目を開けているみたいに見えるのは面白いとヴィオラは思った。
ぼんやりとしているジークハルトは相当に疲れがたまっているように見える。
「どこか、つらいところはありますか?」
ヴィオラは体調はいかがですか? という意味で訊ねた。
ジークハルトは眠そうな目でヴィオラを見た。
それから「俺がつらいと思ってる事聞いてくれる?」とぼんやりしたまま返した。
その瞬間ヴィオラは言葉のとらえ方がまた違ってることに気が付いた。
けれど、別に彼の話を聞きたくない訳ではなかった。
だから、あえて訂正しなかった。
寝ぼけていなければきっとジークハルトもそんな事を言い出さなかった。
「実の親兄弟を為政者として相応しくないと判定しなければならない事が辛い」
ぽつりと言った言葉だった。
ヴィオラは変わり者だ。けれど、それについて強く父や母に言われた事は無い。弟も含め、家族の仲はいい。
ジークハルトの吐露したものはそれに比べはるかに重い。
この人は孤独なのだとその時初めてヴィオラは思った。
自分の家族も信用できない立場に立たされた人なのだと。
ジークハルトという人物について深く考えてみたことがヴィオラには無かった。
考えても考えなくても、二人の結婚は決定事項だった。
ヴィオラは衝動にかられてジークハルトに手をのばす。
そっと抱きしめた体はがっしりとたくましく、ヴィオラとは全く違う強い男のものだと思った。
けれど、どうしてもそうやって腕をのばして背中を撫でてあげたくなったのだ。
こんな衝動にかられた事は人生で初めてだ。
けれど、ヴィオラはその衝動の名前を知っている。
それを、恋と呼ぶのだとヴィオラはすぐに気が付いた。
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