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番外編:腕輪と錬金術
「ねえ、なんで最初に私に贈ってくれた本は錬金術についてだったの?」
快晴のなかパレードはつつがなく終わった。
この後準備をして、夜会があってから夫婦となった二人は三日間、宮にこもるのがしきたりになっている。
身支度に必要な時間から逆算して後十分ほどでお互いの控室で準備をせねばならない。
そんなタイミングでヴィオラはジークハルトにそう聞いた。
「その腕輪」
結婚式でお互いの腕につけあった腕輪をジークハルトが指さした。
金色の輪をヴィオラはそっと、愛おしそうに撫でる。
半ば無意識にしてしまった仕草だったけれど、それを見たジークハルトは嬉しそうに目を細めた。
「王族の婚姻の証であるその腕輪は錬金術でつくられてるんだよ」
当たり前の様な軽い口調でジークハルトが言った。
腕輪についても、錬金術についても今まで二人で何か会話をしたことは無かった。
「婚姻をしたから教えてくださることが増えたんですね」
ヴィオラがしげしげと腕輪を見つめ直してからジークハルトに言った。
「そうだね。君はもう後戻りが出来ない訳だ」
「後戻りするつもりはありません」
絶対に裏切らないという約束を違えるつもりはヴィオラには無かった。
そうでなくてもこの人の支えになりたかった。
「この腕輪について結婚前に教える訳にはいかなかったけれど、君にこれを贈るとき、それがどういうものか知っていて欲しいと思ったからあの本にしたんだ」
ヴィオラはあの本に書かれていたことを一つ一つ思い出した。
「卑金属から作られている様には見えませんね」
作られた物質自体に違いは無いと書いてあった。違いは魔術的な力がそこに込められているか否かだ。
「正しい方法で精練すれば、美しいものは正しく美しくなるんだよ」
そう言って、ジークハルトはヴィオラの髪の毛を撫でた。
それが、錬金術だけの話ではない気がして、ヴィオラは思わず真っ赤になってしまった。
「よかった。正しく意味が伝わって」
ジークハルトはいつもの狐の様な笑みを浮かべながらそう言う。それから立ち上がって「じゃあ、俺は準備してくるからまた夜会の時に」と言って部屋を出て行ってしまった。
彼と入れ違いの様に入ってきた侍女に「仲睦まじいご様子ですね」と言われてしまうまで、ヴィオラはただ、赤い顔をして固まってしまっていた。
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