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罰なのか
* * *
パーティの翌朝、ヴィオラは王宮にある王子の執務室に呼ばれた。
昨日のパーティについて何かあったのか、それとも……。そう考えながらヴィオラがジークハルトの元に向かうとそこに彼はおらず、彼の側近の青年が一人、ヴィオラを待ち構える様にしていた。
側近であるフィッシャー卿はヴィオラを見て歪んだ笑みを浮かべた。
「本当に、君は妖精姫とは何もかもが違うんだな」
まともな会話も無くそう言われてヴィオラは驚く。
「妖精姫?」
「殿下の元婚約者殿だ。彼女は妖精の様な美しさと、誰もが憧れる内面を兼ね備えた人だった」
うっとりと言う言葉で妖精姫が誰なのかヴィオラにはようやく分かった。
「それに比べて、君は何というか……」
殿下に会うという心づもりはあるのか?
そう聞かれて自分の身なりを確認する。
侯爵家の侍女が支度をしたのだから間違いは何も無いだろう。
「君の様な者しか残っていないなんて、私は殿下が哀れでならない」
歪んだ笑みを浮かべたままクラムは言う。
「一体、殿下が何をしたって言うんだ」
まるで悲劇のヒロインの様な言い草だ。
そもそもジークハルトは男性なのでヒロインはおかしい。そうヴィオラは自分の思考を訂正する。
ジークハルトはヴィオラにこれを聞かせるために彼女を呼び出したのだろうか。
「私は殿下にとっての罰って事ですね」
静かにヴィオラは言った。
「それとも私自身が罰の様な人間という事でしょうか?」
別にどちらでもさほどの違いは無い。
ヴィオラの様な面白みも無く、大して美しくもない女を娶らないといけないかわいそうな王子様。
頭でっかちで良いところの見つからない令嬢であるヴィオラ。
権力としての後ろ盾も、まあ侯爵家としては標準的。
権力に対する欲求の薄いヴィオラの実家は毒にもならない代わりに、恐らく薬にもならない。
大切な王子様がかわいそう。
そう思うのは勝手だが、それをヴィオラに押し付けてもどうしようもない。
ヴィオラから断れるようなものでもないし、今日から突然ヴィオラが誰もが一目見たら忘れられないような美女になれる訳でもない。
この人は一体何がしたいのか。
「私の存在が罰なのであれば、おかわいそうな王子様に別の令嬢を探してさしあげてはいかがでしょうか?」
消去法で今王子妃教育と同等の知識を持っているのがヴィオラだけだという、話なのであれば、麗しい才女を探して王子妃教育を施すという方法も本来あるのだろう。
探してくればいいのだ。少なくともヴィオラにこうやって嫌味を言っているよりよほど建設的だ。
「ちなみに、『妖精姫』様はどんな方だったのですか?」
ヴィオラはクラムの言葉に傷ついたかもしれない。
けれど、それよりも彼女の元々持っている大きな資質としての知識欲の方が勝ってしまった。
よく知らない、絶賛される『妖精姫』なる人物が一体いかなるものなのか、知りたいと思ってしまった。
元々、前婚約者がどんな人かを知りたいと思っていたのだ。
丁度いい。
ジークハルトもいないのだし、いかにヴィオラが比較されて駄目だと思われてしまっているのか、存分に話してもらおう。
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