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体力測定。
中学生の頃の1番嫌いな時間だった。
チビで運動音痴の僕は、どう考えてもあの時間が平等なものとは思えなかった。
もっと嫌なのは、僕たちのクラスは男子も女子も奇数で、学年1チビな僕は決まって幼なじみの夏海と組まされる。
夏海は何も気にしていないみたいだったけれど、これが恥ずかしくてたまらない。
仲良い友達からも、付き合ってんのか?とかからかわれるし、夏海がそこそこ可愛いのがさらに憎い。
そして体力測定で最も嫌な種目。
これが"長座体前屈"
あんなもの測って人生の何になるのか、心の底から理解が出来なかった。
しかし、中学3年の長座体前屈はその嫌気に少しだけ変化があった。
「毎年、毎年あんたってほんと身体硬いよね。やる前に私が少し伸ばしてあげるよ」
長座体前屈の測定前、夏海はそう言うと、座った僕の背中を伸ばそうと押す。しかしピクリともしない。
「もー、仕方ないな。押すのがダメなら引くまでだ!」
夏海はそう言って僕の向かいに座ると、僕の真っ直ぐのびたその足裏に自分の足裏をくっつけて、僕の手を取り思い切り引っ張った。
「あいたたたたぁぁぁ!!痛い痛い!!ストップストップ!いやぁぁぁ」
「あははははは!あは、ちょっと、人が真剣にやってあげてるのに笑わせないでよ!」
くそぉ。なんでこんな仕打ちを受けなきゃならんのだ……
そう思うと、だんだん夏海に腹が立ってくる。
「コノヤロウ〜。そういうお前だって人のこと言えるほど柔らかくはないだろ!!」
僕はそう言って今度は夏海の手を引っ張った。
夏海は自然に前かがみになり、艶やかな髪がなびき、ふわっと良い香りがした。
それはもう、伸びた伸びた。伸びきった。
不覚にも。
僕の鼻の下が……
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