命に代えても

3/4
前へ
/60ページ
次へ
一行の馬車は大通りの端まで来ると、大きく右に曲がる。 そこから凱旋広場を横切り、また右に曲がって王宮へと戻れば、パレードは終了だ。 そのあとはロイヤルファミリーがずらりと王宮のバルコニーに並んで、ファンファーレや祝砲、花火などで祝う式典がある。 空は雲一つない秋晴れ。 爽やかなそよ風が吹き、人々の笑顔を見ながら、クリスティーナも幸せな気持ちを噛みしめていた。 その時だった。 「うわっ!」 すぐ後ろの子ども達を乗せた馬車から、ヒヒーン!という馬のいななきと、御者の驚く声が聞こえてきた。 何事かと振り返ったフィルとクリスティーナは、次の瞬間一気に青ざめる。 馬車の前に飛び出して来たらしい子犬に驚いて、馬が前足を高く上げていた。 御者がなんとか手綱をさばいて落ち着かせ、馬が前足を下ろした時、今度は子犬を追いかけて小さな男の子が飛び出して来た。 「危ない!」 誰もがそう叫び、御者が大きく手綱を引く。 フィルは馬車から飛び降り、男の子に駆け寄ると、素早く抱きかかえて馬から遠ざけた。 「申し訳ありません!ありがとうございます、王太子様」 母親が慌てて駆け寄り、男の子と子犬を抱きしめてフィルに頭を下げる。 フィルが頬を緩めて男の子の頭をなでた時だった。 「キャー!!」 一斉に悲鳴が上がり、子ども達の馬車を振り返ったフィルは、再び血の気が引いた。 驚いて興奮状態になった馬が暴れ、御者を地面に振り落とすと、そのままの勢いで林の中に向かって走り出したのだ。 「アレックス!フローリア!マックス!」 「おとうさま!」 暴走する馬車に向かって叫ぶと、フローリアの悲痛な声が聞こえてきた。 すぐにあとを追いかけようとする近衛隊の馬を止め、フィルが代わりに跨がって一気にスピードを上げた。 「みんな!しっかり掴まってるんだ!」 追いかけながら、フィルは子ども達に大声で叫ぶ。 「おとうさま!おとうさま!」 「フローリア、大丈夫だ。すぐに助ける!アレックス、フローリアとマックスを頼む!」 「はい!」 フローリアは泣きながら必死に馬車に掴まり、アレックスは唇を引き結んで、ワンワン泣きじゃくるマックスを抱きしめている。 フィルは馬車を追い越し、暴走している馬に近づくと、手綱に片手を伸ばした。 「くそ、あと少し…」 半分馬から身を投げ出すようにしながら、なんとか暴走する馬の手綱を握った時、目の前に広がっているはずの木々が突然開けた。 (崖だ!) そう思うが先に、フィルは渾身の力で暴走する馬の手綱を引いた。 「ヒヒーン!」 馬がいななき、前足を上げてからようやく動きを止める。 だが、突然止まった馬に対して、馬車は遠心力に振られて大きく前方に弧を描いた。 その先に広がるのは、林ではなく……
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加