太陽の王と月の王妃

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太陽の王と月の王妃

「クリスティーナ」 呼ばれて振り返ったクリスティーナは、月明かりに照らされてバルコニーに現れたフィルに微笑む。 「フィル」 「夜風は冷たい。風邪を引くぞ」 フィルは着ていたジャケットを脱いで、クリスティーナの肩に掛けた。 「ありがとう」 二人は並んで、バルコニーから夜の景色を眺める。 子ども達はぐっすり眠り、街も静まり返っていた。 「どうしたの?考え事?」 「ええ、少し。せっかくの式典を中止にしてしまって、申し訳なかったなって」 子ども達の馬車が暴走したあと、国王と王妃はすぐさま護衛されながら王宮へと戻った。 予定されていた式典は全て中止だと知らされても、民衆はその場に留まり、王太子一家の身を案じていた。 やがて馬に乗って一家五人が現れると、割れんばかりの歓声と拍手が湧き起こり、人々は涙ながらに、良かったと安堵していた。 「誰もがこの日を楽しみにしてくれていたのに…」 小さく呟くクリスティーナの顔を、フィルが覗き込む。 「大丈夫。みんな、子ども達の無事が何よりだって思ってくれているよ」 「そうだけど、申し訳なくて…」 「それなら、また何か催しを考えよう。秋だからスポーツフェスティバルとか、王宮の庭園でガーデンコンサートとかはどう?」 クリスティーナの顔がパッと明るくなる。 「素敵!やりましょう」 「ああ、そうだな」 クリスティーナの笑顔にフィルも微笑む。 「それにしても、今日のアレックスは本当にえらかったな。フローリアとマックスを守ったのは、間違いなくアレックスだ」 「そうね。自分だって怖くてたまらなかったはずなのに、何よりもまずは弟と妹を助けてくれた。教えられてやった訳ではなく、自然とそうしてくれたのよ。アレックスはフローリアとマックスにとって、誰よりも頼れる立派な兄だわ」 「ああ。まだ6才だけど、アレックスには国を任せられる素質がある」 するとクリスティーナが、驚いたようにフィルの顔を見上げた。 「ねえ、フィル。まさか自分を通り越して次の国王をアレックスに任せようと思ってる?」 「は?違うわ!そんなに早く俺を隠居させないでくれ」 あはは!とクリスティーナは声を上げて笑う。 フィルもつられて笑ってから、バルコニーの手すりに両腕を載せて話し始めた。 「クリスティーナ。俺さ、小さい頃からいずれ国王になるのは必然の事だとボンヤリ思ってたんだ。特に疑問も持たなかったし、嫌だと反発したりもしなかった。だけど今、心からこの国を守りたいと思う」 静かに語るフィルに、クリスティーナはじっと耳を傾ける。 「クリスティーナと子ども達、俺の命に代えても守りたい存在があるから。その為に俺は強くなる。国民の幸せを願う心優しい君を笑顔にしたいから、この国の平和を守りたい。そして子ども達が将来幸せに暮らせる国を、いつまでも守っていきたい。そう願ってやまないよ」 フィル…と、クリスティーナは目を潤ませる。
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