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音無は、アパートを出ていったシンヤの後を追いかけて探しに行く。なんてことはしたことがない。あくまでシンヤは、レンズ越しに見るだけの人であるからだ。
関係を持ちたいだなんて下衆な願いを叶えるつもりは音無にはさらさらなかった。音無は彼の唇から漏れ出るメロディを知るだけでいいし、シンヤに自分という存在を知られたくないと本気で思っていたし、仮に知り合いになりたかったとしてもそれを叶える勇気も度胸も持ち合わせていなかった。
レンズ越しにシンヤを見ることが音無唯一の楽しみになることにそう日を要さなかった。
シンヤは誰もが振り返る美形とは呼べないが、色白で切れ長の一重瞼で、所謂流行りのK-POPのアイドルに似ていた。だからなのか、音無は彼には妙な色気があると思った。首筋にあるほくろも、骨ばった体も如何にも女子受けしそうだと思ったし、薄い唇から漏れ出る言葉は穏やかで人を惹きつける。
実際、本命っぽい女の子以外の女の子が家に遊びに来ていたことがある。あれはいつか刺されるなと、音無は双眼鏡を覗きながら思った。
シンヤが音楽が好きなのか、それとも女の子が好きなのかということが、音無には判断がつかないことがある。
というのもシンヤはスマホでよく音楽を聞いていた。そして好きな曲をコードに書き起こしてコピーするということも好んでよくやっていた。シンヤには流行りのJ-POPやK-POPの曲なんかもアレンジしては自分の物にするという強みがあった。
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