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シンヤの部屋の明かりが消えて真っ暗になると、音無は双眼鏡を下ろしてベッドに横たわる。そして喉の渇きを思い出すと、毛玉だらけのスウェットを着ている音無は伸びた髪を邪魔そうにかき上げた。すでに寝ているはずの家族に気付かれないように気配を消しながら移動して、台所にあるお茶を飲んだ。少しお茶が唇から漏れたので毛玉だらけのスウェットで拭いとる。また、耳が痒いので小指を耳の穴へと突っ込んでガシガシと掻きむしる。耳垢が少し爪の隙間に入り込んだ。それをまた毛玉だらけのスウェットで拭った。家族の誰も、音無の存在に気付かなかったことにほっとしたまま、音無は自室へと静かに帰っていった。
シンヤはオリジナルソングの制作も積極的に行っている。動画系のSNSにも投稿しているため、たまに再生数をチェックする姿も音無は目撃する。
もちろん音無もシンヤの動画はチェック済みだ。平均して10万再生はされているので固定の客はそこそこ付いているらしい。加工のせいで実物よりも美形なシンヤが映る事だけ少々気にはなるけれど、双眼鏡を覗かなくてもシンヤの歌を堂々と聴くことができることが音無は嬉しかった。動画だと歌詞が表示されることも気に入っている。
音無はスマホを取り出してシンヤの動画を再生した。夕日に照らされながらオリジナルソングを弾き語るシンヤは素直にかっこいいと思えた。陰鬱な空気がノスタルジックな印象を与えつつも、決して古臭いだけではないシンヤの独特な魅力を伝えていた。
あぁ色っぽい。そりゃ女にもてるよなと音無は勝手に納得する。
いくつかの動画を連続で見つつ、音無はシンヤとの時間を楽しんでいたが、急にドアが叩かれて、返事もしないうちに開かれた。
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