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翌朝、目が覚めると、俺は宝条と同じベッドで寝ていた。
俺は昨夜の記憶を手繰り寄せ、後悔の念に駆られた。
酒の勢いとはいえ、なんてことをしてしまったのだろう。
とにかく、ここから早く帰らなければ。
俺は気怠い身体を無理やり起こし、床に散乱した服を拾うと、急いで着替えを始めた。
宝条が起きる前に、この部屋を出たい。
「おはよ。」
しかし、一足遅かった。
「おはよう」
俺は平然を装い言った。
「帰るのか?」
「ああ。」
「今日は会社も休みなんだから、ゆっくりしていけよ。送ってくから。って、家なかったっけ。」
思い出したかのように、宝条は言った。
「嫌味かよ。」
「違う。」
すると、宝条は腰にバスタオルを巻き、俺の傍まで歩いてきた。
「友達の家に長居もできないだろう?」
「部屋が決まったら出ていくことになってる。」
「それで決まりそうなのか?」
宝条は痛い所をついてきた。
物件を探してはいる。
だが、いい所が見つからない。
「ここに住めよ。」
「え?」
宝条の予想外の言葉に、俺は顔を上げた。
「社員を路頭に迷わせる訳にはいかないからな。」
「宝条の世話になる気はない。」
「そういうと思った。だから、藤堂は俺の世話をしろ。」
「はぁ?」
こいつ何言ってるんだ?俺は口から出そうになった言葉を無理やり飲み込んだ。
「俺は藤堂に住む場所を提供する。その変わり、お前は家事全般を担当する。その代わり、家賃もなしだ。どうだ?」
「どうだ?って…」
「条件を飲むならこれもお前に渡す。」
宝条は俺に1枚のクレジットカードを差し出した。
「好きに使え。」
「金持ち自慢か?」
「どうとでも。」
ムカつく。だが、俺に選択肢などなかった。
「...分かった。」
「契約成立だな。」
宝条は不敵な笑みを俺に向けた。
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