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しばらく車を走らせると、高級ホテルが見えてきた。
宝条は何の躊躇いもなく、駐車場へと入っていく。
「おい!ここって……」
「ははっ、誤解するなよ。朝食を食べるだけだ。それとも、部屋もとった方がいいか?」
「いや、いい。」
「ここのホテルの朝食は絶品なんだよ。」
ホテルで朝食か。
金持ちの考えることは違う。
そして、思い知る。
俺を取り巻く世界が180°変わってしまったことを。
両親と笑いあった日々。
何不自由なく欲しいものは全部手に入った日々。
何もしなくても人は寄ってきた。
でも、今の俺には何も無い。
今朝の朝食代でさえ、払うことに躊躇する。
かつてのライバルであった宝条と、こんなにも差ができてしまった。
「どうした?」
「なんでもない。」
「そうか。」
宝条はそれ以上、聞いてこなかった。
車内に沈黙が流れる。
その重い空気を吸いかねた俺は口を開いた。
「オムレツあるか?」
「あるよ。その場でシェフが焼いてくれる。」
「美味そう。もちろん、社長の奢りだよな?」
「部下に払えとは言わないよ。」
俺はその場で伸びをした。
くよくよ悩むのは俺らしくない。
変わってしまったものは仕方ない。
ならば、この状況を楽しむまでだ。
「今日の会議は12時からだ。」
「うん。」
「そういう事だから。」
「どういう意味だよ。」
「あとは自分で考えろ。」
俺は宝条に最高の作り笑顔を向けた。
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