一線を越える夜

3/10
前へ
/24ページ
次へ
「まぁいい。もう1件付き合え。」 「嫌だ。」 「その割には、顔は嫌そうじゃないけど?」 「うるさい。」 宝条に知られる訳にはいかない。 俺が彼に抱いている気持ちを。 本当は2人きりになれて、嬉しいと思っていることも。 「ほら、行くぞ。」 会計を済ませた宝条が振り向いた。 その瞳には俺が映っているのだろうか。 俺が立ち止まっていると、宝条が俺の手を握った。 俺はその手を咄嗟に振り払った。 「ひとりで歩ける。」 「あっそう。」 俺は宝条の背中を見つめた。 この背中に抱きつきたい。 なんて、言えるわけがない。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加