新約ピノッキオ

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「僕がつくったピノが、人殺しをしたんだ。だ、だから僕が責任を取らないと……」  彼の瞳は涙ぐんで揺れていた。まるで薪を燃やす炎のようだ。炎がつくるオレンジ色の光のようだ。彼から伸びる黒い影のようだ。ゆらゆらと揺れ動く瞳は、今も尚、時間が淀みなく流れていることを示している。決して大宇宙が止まることなどないという事実を、天の使者のように伝えている。 「リロイの言う通りだ。君を生んでしまったのが間違いだった」  ――ごめんね。という懺悔とともに、ラッツオはピノを突き飛ばした。その先には焼却炉の入り口がある。不規則に動く炎が、まるでピノの身体を求める触手のように、ピノに絡まり、燃え移り、彼を炉の中へと誘った。  ドリーと生徒は立ち尽くしていた。止めようと思った頃には、既に事が運ばれていた。栄養を得た炎が、先ほどよりも勢いを増して燃え上がる。その場にいる全員の心臓と呼応するように、揺れる。揺れる。揺れる。断末魔が聞こえてくる。――嫌だ。死にたくない。僕じゃない。僕じゃないんだ。信じてよ。まだ死にたくない。僕を殺さないで。僕は生きている。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
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