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「あれはピノが悪いんだよ。彼って嘘つきでね。嘘をつくと鼻が伸びるんだ」
「鼻が、伸びる?」
再びドリーは振り向いてみる。だけど、階段を下りながら会話をしていた為、踊り場の様子は全く見えなくなっていた。代わりに、天井近くにある窓から顔を覗かせていた太陽がまぶしくて、ドリーは目を細める。
「ラッツオがそうなるように作ったんだよ」と、生徒が言った。
「作った?」
「そう、元々ピノは松の木だったんだけど、ラッツオがそれを彫ってピノにしたんだ」
――松の木を掘って、ピノにした。職人が作品に命を吹き込むという表現はよくみるが、実際に作品が動きだして息をするなんて、聞いたことがない。だがドリーは彼の鼻が伸びている様を目にした以上、その話を頭ごなしに否定することは出来なかった。
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