0人が本棚に入れています
本棚に追加
「……なにが、あったんだ?」と、ドリーの隣にいた生徒が尋ねると、ラッツオが震えた声で答えた。ドリーはこの時、転入してきてから初めてラッツオの声を聞いた。
「リ、リロイがピノを、し、焼却炉に押し込もうとして、それで……抵抗したピノが……」
「殺したのか?」
ラッツオは頷いた。それにピノが反応した。
「ちが……僕じゃない!」
ピノの鼻が伸びた。
生徒はピノを問い詰めることはしなかった。誰が殺したのかは一目瞭然だ。ピノが持つ性質上、完全犯罪はあり得ない。これ以上の問答は無意味だと判断し、彼はピノに対して冷たい視線を送っていた。
「僕じゃない! 僕じゃない! 本当なんだ! 信じてくれ!」
ピノが喋る度に、鼻はぐんぐんと伸びた。彼が事実の隠蔽を計っても、事実の方からとめどなく溢れ出てくることを生徒は知っていた。焼却炉の中ではパチパチと薪が爆ぜている。裏庭は狭いが空気の通り自体は良く、心地のいい風が吹き抜けてくる。蒸し暑い体育館で授業がある日には、この場所はよく生徒のたまり場になっていた。焼却炉から立ち昇る黒い煙も、風が攫ってくれる。
「ぼ、僕のせいだ」と、ラッツオは口を切った。
最初のコメントを投稿しよう!