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「本当に、申し訳ありません」
魔族の少年の父親という男は、ひたすらドテナに謝り続けていた。
謝られたところで、ドテナの息子は戻って来ないのに。
ドテナはただただ静かに、それを眺めていた。
「この償いはします」
その言葉に、ドテナは暗い嗤いが込み上げそうになる。
――なら、あんたら魔族、全員死んでくれないか?
そんな言葉が喉元まで出かかったが、何かにつっかえて、呼吸を苦しくするだけだった。
「ただ、許して貰おうとは思いません」
思わずドテナは魔族の男を見る。
その顔はどこまでも真摯だった。
「息子を殺されたら、相手が誰であろうが、何をしてもらおうが許すわけがありません。
ですが、何をしても無駄だからといって、私たちがそれを忘れて安穏とするのは間違っていると思います。
だから、一生、私たちはあなたに償い続けます」
ああ、こういう男だった、とドテナは思い出す。
ドテナと魔族の男は知り合いだった。
たまたまドテナが、魔族の男が住んでいる集落の近くに住んでいるだけだったが、お互い良い関係だったのである。
なかでも良かったのは、ドワーフの職人であるドテナに、魔道具や武器の催促や強奪をしなかったことだ。
ドワーフは自分の作った物を他の種族に奪われたり、無償で作るよう頼まれたりすることが多い。
だが、その集落の者は道具の作り方やコツを聞くことはあっても、誰ひとり、ドテナに道具を作ることを強要したり、作られた物をせがんだりする者はいなかった。
ドテナは唇を噛み締める。
だからこそ、ドテナはこの男を完全に憎むことができないのだ。
これが見下げた悪漢だったら、いくらでも憎悪をぶつけることができるのに。
その日、魔族の男が帰ったあと、後に残されたドテナの中には、ドロリとした行き場のない憎しみが残っているだけだった。
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