怪獣よ、ピアノで歌え

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「ひーろーいーひーろーいー!」  紫野が歓喜の声を上げ、標野がハモった。  今日はたまの、合唱部が音楽室を使える日。  なのでピアノもグランドピアノである。軽く弾くと「ピアノの音でっかーい!」と女声ユニゾンがとんで、峠はドキッとした。獣の片鱗。 「これ、中学校の課題曲だったやつだけど、本当にいいの?」  顧問の藤原先生…音楽教師がいなくて、今は吹奏楽の合間に合唱部も見てくれている……が、出された自由曲について聞いた。 「はい。歌手もピアノ弾きながら歌うから伴奏の重要度も高いと思うし、ウチの三人はJ-POPの方が得意なので、本格的な合唱曲より全員が主役になれると思いました。…それに」  部長は少し俯いた。 「自分は、これを歌いたいです」  四人は内心驚いていた。この楽譜を見つけた部長は「これがいい!」しか言わなくなって、四人が根負けしたのだった。そんな色々考えてたとは。 「手拍子も?」 「はい」  藤原先生は「じゃあコレで出しとくね」とメモを取った。  先生の指揮も合わせて、通しの練習。  発声や発音、声量の凸凹を調整。  峠は、何度もミスをした。都度、指摘も指示もされる。中学の伴奏では、こんな事なかった。先生方も言いにくかったろう、と、今は思う。  自分は歌うことが出来ない。だがこの、歌う人たちと共に一つの音楽を作り上げていく気持ちは。  指の震えは、緊張だけではなかった。 「らしくないね王毅」  帰り道、紫野は茜田部長に聞いた。二人きりの時は名前で呼ぶ。 「らしくない、とは?」 「ちゃんと『部長』やれてんじゃん、怪獣やめたの?……ごめん。ふざけた」  紫野は幼馴染を見上げ、素直に謝った。 「でも、らしくないのは本当。だいぶ無理してるしょ、最近いつも疲れてる。何かあった?」  茜田は幼馴染を見下ろし、迷った。 「コンクール終わったら話す」
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