怪獣よ、ピアノで歌え

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 頭から出血して会場は騒然となったが、怪我は大したことなかったらしい。部長は額に大きな絆創膏を貼って、次の日から普通に登校してきた。だが。 「オレは今日をもって合唱部を退部する! みんな、今までありがとう!」  四人は絶句した。  ピアノ室のドアが開いた。 「妹尾…⁈」 「今日から妹尾が合唱部長だ、妹尾、あとよろ…」 「待って王毅! どういうこと⁈」  紫野が幼馴染の腕を掴んだ。 「オレが馬鹿やったせいで、合唱部が壊れた。当時の三年生には償いきれなかったが、壊したものは直して返すべきだ! 最高の伴奏者が入部してくれて、コンクールで銅賞をとり名誉挽回もした! オレが辞めて、やめた人たちが戻る。これでやっと…元通りだ!」 「アンタが元に戻れてないじゃないの!」  紫野は茜田をビンタした。 「なら私も辞める。怪獣がいないなら、世話係も要らないでしょ」  紫野が辞めたので、相棒の標野も合唱部を辞めた。野守は、演劇部に引き抜かれて去った。  峠は残った。新しい…そして人数が多い…合唱部で引き続き伴奏を担当したが、2年になってから腱鞘炎で退部した。  退部後、茜田と会う機会があった。大学に進学できても合唱部には入らない、という。 「ヤマ中の合唱を見たことがある。キミはイントロこそ激しい演奏をしていたが、歌が始まると寄り添うように優しい弾き方をした。  きっと、オレはキミのようになりたかったんだ」  峠は、ルーズリーフに書き込んだ。 『ぼくは、あなたのおかげで合唱や伴奏の楽しさを知りました。本当に感謝しています』  少し考え、書き足し、渡した。 『世界一美しい夢を、ぼくも見れました』  怪獣のいない新・葉一高合唱部は、コンクール地区大会で金賞をとった。 (了)
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