第4章 四年目*

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第4章 四年目*

 家の庭先で、若い男が薪割りをしている。  まだ春先で寒いのに上半身は裸だ。彼が斧を振りあげるたび、鍛えられた筋肉がしなやかに躍動し、小気味よい音を立てて薪が真っ二つに割れる。  それをディヴィアンは離れた場所から眺めた。  ラケオがこの家にきて、四度目の春が訪れていた。時は流れ、あの薄汚れて痩せた子供と出会ってから丸三年がすぎていた。この年、彼はディヴィアンの背丈を追い越した。そしてまだとまる様子もなく成長している。百歳換算で十八歳。  容姿からは幼さがすっかり消えて、今は精悍なひとりの青年に変貌していた。大きかった瞳はそのままに彫りの深い目元と鼻筋になり、最近ではうすく髭も生えてきている。それを剃刀で剃る姿は、まったく想像もしていなかったもので、月日の流れる早さに驚かされた。  時がとまってしまえばいいのに。このごろ、ディヴィアンはそんなことを考える。なぜ時間は一方通行に進んでいくのだろうか。なぜ成長と老化は、万人に等しく与えられていないのだろう。 「アン」  薪割りを終えたラケオが笑顔でこちらにやってきた。 「準備はできた? もう出かける時間だろ」  若い男の明るい声音に、ディヴィアンの心臓がドクリと跳ねる。 「あ、ああ」  上半身裸のラケオが隣にくると、ディヴィアンは不自然に目をそらした。   「僕もついていきたいんだけどな。やっぱり今回もダメ?」 「ダメだ」  すげない言い方で、相手に背を向けると家に向かってスタスタと歩く。その後ろをラケオが追いかけてきた。 「でも最近、この近くは盗賊が出るって噂だよ」 「知っている。乗合馬車には用心棒も同乗させるらしいから、大丈夫だ」 「ふうん。けど留守番は暇だしなあ」 「留守番は大事な仕事だ」  仕事場に入ったディヴィアンは鞄に荷物をまとめた。  寿命判定師であるディヴィアンは、一か月に一度、七日間、仕事で王都まで出張する。王都の判定所で人々の寿命判定をしたり、住民の判定書を整理したり、貴族の訪問判定を行ったりするのだ。それはこの国に住む判定師の義務であり、大切な実入りでもあった。出張の手あては大きい。
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