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四人はやはりこのあたりを荒らす盗賊だった。
ラケオはディヴィアンの身を心配して、帰宅予定日に、街道沿いにある馬車乗り場まで斧を手に迎えにきていたのだった。
「遠くから馬の悲鳴がかすかに聞こえたんだよ。それで急いで駆けてきた。月のない夜だったから嫌な予感がしてさ」
その予感が的中し、馬車は襲われた。盗賊団は四人とも重傷を負い、怪我の手あてもそこそこに領主のもとに連行された。そこで処分が下されるのだろう。
事件の諸々の処理が終わって、翌日ようやく自宅に帰ると、ディヴィアンは安心から急に恐怖がよみがえり震えがとまらなくなった。ラケオがくるのがもう少し遅かったら、自分はこの世にいなかった。その想像に感情が振り乱される。もう無事だったから怖れる必要はないのに、どうにも戦慄きがおさまらなかった。
「アン、大丈夫?」
ベッドに腰かけるディヴィアンの横にラケオがやってくる。返事もできずに身体を固くして黙りこんでいると、ラケオは痛ましげな目を向けてきた。
「怖かったんだね」
肩に手を回して、そっと抱きよせる。その温かさに泣きそうになった。
「……お前は怖くなかったのか」
ラケオの腕に力がこもる。
「怖かったさ。アンに何かあったらって思ったら、怖くてたまらなかった」
ディヴィアンは目をあげた。こちらを見つめる瞳には温かな黒色がたゆたっている。
「お前、いつの間にあんなに強く……」
四人の盗賊に怯むことなく戦いを挑んでいた姿を思い出す。
「夢中だったんだ。それだけだよ」
アン、アンと言って駆けてきた小さかった姿が脳裏によみがえった。あのときの子供が今はもう、こんなに逞しい大人になって自分を救いにきてくれた。
ディヴィアンの目に涙がにじむ。
「……助けてくれてありがとう」
礼を伝えれば、ラケオは少しはにかんで笑った。
その夜は久しぶりに、ディヴィアンのベッドでふたり一緒に眠った。どちらからともなく身をよせあって、そのままシーツに潜りこんだ。ラケオの体温が高ぶっていた気持ちを静めてくれる。両手で身体を抱かれれば、ゆりかごのような安心感を覚えた。
ラケオの匂い。夜露をためた早朝の草花に似た、若く甘い香り。それを深く吸いこんで、ディヴィアンはようやく眠りにつくことができたのだった。
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