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「だいたい、僕の寿命につりあう人なんていない」
「えっ」
今度はディヴィアンが大きな声をあげる番だった。
「お前、自分の寿命を知っているのか」
それに冷淡な瞳が向けられる。
「知ってる。ずっと前に知った」
「誰が教えた?」
「王都の判定所に連れていかれたとき、判定師のひとりが教えてくれた」
「……あのときか」
ラケオは何も言わなかったが、子供のころにはもう、自分の寿命がわかっていたのだ。
ディヴィアンは唇を震わせて俯いた。ラケオは知っていた。自分の命の期限を。
もちろん隠し通せるはずはないとわかっていた。いつかは告げねばならないと覚悟は決めていて、けれど聞かれないのをいいことに先延ばしにしていた。成長の早さから本人にも予想はついていただろうが、明確な数値を口にするのは嫌だった。
「なぜそのことを私に言わなかった」
「アンが、話したくなさそうだったから」
「そうか」
ディヴィアンが床を凝視していると、頭上から静かな声がした。
「アン」
震える両腕に、そっと手が添えられる。
「どうしたのさ」
「……」
「僕が、自分の寿命を勝手に知っていたのが、気に入らないの?」
「違う」
そうではない。気に入らないのではなくて、悲しいのだ。どうしてか、とても悲しい。ラケオは知っていながら一言も口にせず、普通に暮らしてきた。そんな彼に自分は一体、どんな為になることをしてやれたのだろう。
「アン」
ラケオが心配そうに顔をのぞきこんできた。
「僕の寿命が短いことを、哀れんでいるの?」
ディヴィアンは、ハッと顔をあげた。するとすぐ近くに黒曜石の瞳があった。
「……」
違う、と否定したかったが言葉が出ない。寿命差別主義は唾棄すべき愚かな思考だが、ディヴィアンの中に哀れみがないとは言い切れなかった。
澄んだ目から逃げるようにまた俯く。黙りこんだディヴィアンにラケオがふっと息をはくように笑った。
「アン。僕は自分を不幸だと思ったことはないよ」
静かで優しい声だった。まるで小さな子供をあやすような。これまではずっと、ラケオのほうが年下で庇護すべき存在で、自分は頼られる養育者だったのに。今はラケオのほうが大人に感じる。
「そりゃ、他人に比べたら短い人生かも知れないけれど、不満に思ったことはないよ。天から与えられたものは変えることができないんだし、そういうもんだと思ってる」
「……」
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