第4章 四年目*

6/20

62人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「だいたい、僕の寿命につりあう人なんていない」 「えっ」  今度はディヴィアンが大きな声をあげる番だった。 「お前、自分の寿命を知っているのか」  それに冷淡な瞳が向けられる。 「知ってる。ずっと前に知った」 「誰が教えた?」 「王都の判定所に連れていかれたとき、判定師のひとりが教えてくれた」 「……あのときか」  ラケオは何も言わなかったが、子供のころにはもう、自分の寿命がわかっていたのだ。  ディヴィアンは唇を震わせて俯いた。ラケオは知っていた。自分の命の期限を。  もちろん隠し通せるはずはないとわかっていた。いつかは告げねばならないと覚悟は決めていて、けれど聞かれないのをいいことに先延ばしにしていた。成長の早さから本人にも予想はついていただろうが、明確な数値を口にするのは嫌だった。 「なぜそのことを私に言わなかった」 「アンが、話したくなさそうだったから」 「そうか」  ディヴィアンが床を凝視していると、頭上から静かな声がした。 「アン」  震える両腕に、そっと手が添えられる。 「どうしたのさ」 「……」 「僕が、自分の寿命を勝手に知っていたのが、気に入らないの?」 「違う」  そうではない。気に入らないのではなくて、悲しいのだ。どうしてか、とても悲しい。ラケオは知っていながら一言も口にせず、普通に暮らしてきた。そんな彼に自分は一体、どんな(ため)になることをしてやれたのだろう。 「アン」  ラケオが心配そうに顔をのぞきこんできた。 「僕の寿命が短いことを、哀れんでいるの?」  ディヴィアンは、ハッと顔をあげた。するとすぐ近くに黒曜石の瞳があった。 「……」  違う、と否定したかったが言葉が出ない。寿命差別主義は唾棄(だき)すべき愚かな思考だが、ディヴィアンの中に哀れみがないとは言い切れなかった。  澄んだ目から逃げるようにまた俯く。黙りこんだディヴィアンにラケオがふっと息をはくように笑った。 「アン。僕は自分を不幸だと思ったことはないよ」  静かで優しい声だった。まるで小さな子供をあやすような。これまではずっと、ラケオのほうが年下で庇護すべき存在で、自分は頼られる養育者だったのに。今はラケオのほうが大人に感じる。 「そりゃ、他人に比べたら短い人生かも知れないけれど、不満に思ったことはないよ。天から与えられたものは変えることができないんだし、そういうもんだと思ってる」 「……」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加