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ディヴィアンはオロオロしながらベッドをおりた。とにかくこの状態を何とかしなければ。服を脱いで裸になり、着がえを出そうとしたところに、ノックのかるい音が響いた。
「アン、起きた? もう朝だよ」
ラケオの声だ。
「お、お、起きてる」
「ああそう。あのさ、朝食なんだけど、パンがなくて」
いつもの調子で、ラケオはガチャリとドアをあけた。入るな、と言う暇もなかった。普段ならディヴィアンだって別に気にもしなかっただろう。けれど今日はちがう。
部屋に入ってきたラケオは、全裸で脱いだ服を胸に抱きかかえ、心細げな顔で腰を引いているディヴィアンを見て目を剥いた。
「――あ、着がえてた?」
「あ、ああ」
お互い目を泳がせて会話する。裸の姿を見られるのはラケオが子供のころ以来かも知れない。
「えと、パンがないから、どしよかって」
「おお、そうか、それは困ったな」
自分の服から立ちのぼる匂いを隠そうと寝間着を丸めるが、そうすると下半身がモロ出しになってしまう。焦ったディヴィアンは手を滑らせて、下穿きを落としてしまった。
「あっ」
パサリと床に落ちた服を、ラケオが気を利かせて拾いあげる。
「ああ、これ、洗濯しとく――」
「触るなっ」
慌てて下穿きを奪い取ると、ラケオは呆気に取られた顔をした。
「どしたの?」
真っ赤になってうろたえるディヴィアンを不思議そうに眺めた後、自分の手のひらに視線を落とす。目を見ひらいてそこにあるものを凝視するので、ディヴィアンは彼の手に何が付着しているのかわかってしまった。
「……アン」
ラケオにばれてしまった。自分の放ったものを触らせてしまった。全身が羞恥の業火に焼かれる。
こちらに顔を向けたラケオが、クスリと笑った、気がした。まるで子供の粗相を許すかのような余裕の表情で、口の端をわずかに持ちあげる。
「……出ていけ」
その反応に、ディヴィアンはショックを受け、恐慌状態に陥った。
「出ていけっ、出てけ、すぐに、今すぐにっ、出てけ。もう戻ってくるな、二度と戻るなっ」
頭が真っ白になって何も考えられなくなる。
とにかくラケオに、ここにいて欲しくなかった。顔を見られたくなくて、相手の顔も見たくなくて、すべてグシャグシャに壊し、なかったことにしてしまいたかった。
「アン」
驚くラケオに罵声を浴びせ続ける。
「出てけ、出ていってくれッ」
声を振り絞って、怒りにまかせて、最後には涙目になって訴えれば、ラケオは戸惑いの表情を浮かべながらものろのろと部屋を出ていった。
姿が見えなくなってやっと一息つく。ハァハァ肩を上下させて床にへたりこんだ。
「…………」
すると今度は耐えきれないほどの恥辱に、胸が張り裂けそうになる。自分の犯した失態に、ディヴィアンは服を抱きしめて涙ぐんだ。
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